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モバイル屋台つくります!そこで何する?/「まち健」ようようさんに聞く

2年前、藍染大通り(文京区根津)にて屋台でコーヒーを出しながら、集まってくる人たちとおしゃべりをしている若い人たちを見かけた。

その屋台は「モバイル屋台」と名付けられ、「谷根千まちばの健康プロジェクト」の活動の一つだそうだ。屋台が欲しいという人には、このチームが、作るところからかかわるとのこと。

屋台というものにわくわくしてしまい、作り方説明書を棄てられずにもっていたのだが、最近、そのときの1人密山要用(みつやまとしちか)さんに再会、お話しを伺う機会があった。要用(としちか)さんは、字を見てもあまり読める人はいないので、「ようよう」さんと呼ばれているそうだ。

 

密山さんは、職業は医師で、10年目。家庭医を専門としている。「家庭医というのは、心臓とか消化器とか耳とか、体の部位ごとの専門医ではなく、患者さんと家族、後ろにある友人とかのコミュニティ、住んでいる地域とか、1人の患者さんを前にして、ズームアウトしていくような、どんどん広く背景に迫るアプローチをして、患者さんの体の中だけではなく、生活とか考え方とかまるごと知って、その患者さんが医療とうまくつきあっていけるように、お手伝いをしていける町のお医者さん」だという。

「乳児検診や予防接種、小さい子も診るし高齢者も含めてみなさん診ますよ」という。現在は週の3日は家庭医として、診療所の外来と訪問診療をしていて、あとの2~3日は、医師歴8年目の時から入り直した東京大学の大学院生として医学教育学部門で学んだり研究したりしている。

 

大都市で最期まで生きることとは

密山さんが活動している「谷根千まちばの健康プロジェクト」(通称・「まち健」)ってなんだろう。

「大学院での研究も関係することですが、僕が一番関心があるテーマの1つが大都市の医療です。大都市でこれから最期まで暮らしていく人はいっぱいいますが、どうしたら満足して幸せに暮らせるのか、ということです」と語る。

「医者とか看護師とか医療の専門家が今『健康づくり』に注目していますが、僕は『健康づくり』は『まちづくり』につながっていくと思っています。まちのいろんな活動をしている人たちの経験や知恵をうまく組み合わせ、医者も看護師もその一員としてまちづくりをしながら、みんなで健康にもなっていけるといい。そこには建築家の人たちも必要だし、アーティストも、その街にずっと住み歴史を知っている人も、おせっかいおばさんも必要で、なんとかみんなで、大変そうだけど、どうやっていっしょになってまちづくりをしていくか、それがもう1つのテーマです」と続ける。

「大学院でお世話になっている孫大輔先生もそういう思いで、『まち健』の活動をされていて、僕も手伝いながら、その中でやってみたい活動をやっています」とのこと。東大から近いこともあって、谷根千エリアがおもしろいんじゃないかと、「まち健」の活動をこの地域で展開している。

 

屋台というツールで平らな関係に

「まち健」で密山さんがやってみたいと思ったのが屋台だったという。

「3年前に芸工展に出店を誘われ、何か作ることで貢献できたらいいなと思い、屋台を作るっていうところから始めました。なにか作ると人が集まるじゃないですか。いろいろな人を屋台を作る過程で巻き込んでみようということになり、建築関係の友人を誘い、一緒に活動をはじめました。そういう領域を越えたつながりづくりが目的の一つでした。一見、医療とはまったく関係ないんですけどね」と山さんは笑う。

屋台でコーヒーを淹れたり、本を置いてみたりしながら、道端で雑談して、診察室みたいに緊張する関係ではなくまちの住民と対等にやりとりする場を作りたかったとのこと。

「屋台は移動できるし、いろいろなことができて、お医者さんという立場で一応健康相談とかもできるんだけど、その前に人と人の関係があった上で、この人だったら話してもいい、とかそういうのってあるじゃないですか。そういう関係ができてきたらおもしろい。屋台の活動も家庭医の仕事も、地域目線というところでつながってい」そうだ。

「最初は何が起こるかわからなかったし、いろいろな心配がありましたが、思いがけずできたことがあります」

屋台を出すにはまちの人に置き場所を交渉したり、お願いしたりしながら、ルートを作るわけだが、「僕たち医者の仕事は頼まれることが多く、お願いするということはあまりないんです。人から怒られることもあまりないし。でも屋台をやっていると、『そこに置くんじゃない!』とか、よく怒られる」

地域の中に上下関係があると、まちづくりはうまくいかない。だれでも得意なこともあるし頼らなければならないこともある。「お願いしたり怒られたりしながら地域の中での関係がなだらかになった。お互い平らな関係で、できることとできないことがでこぼこになって組み合わされていることが大事だ」と気づいた。屋台の活動の結果、つかんだことだという。

 

 人が元気に過ごせる期間の指標のひとつとして「健康寿命」があるが、それが延びるには、話し相手がいること、役割があることが関係しているというデータがある。

山さんは「ひとりひとりがその人らしい役割を発揮して、まちの中でゆるやかにつながる場があることで、健康寿命ものびるかもしれないし、まちも元気になっていく。人とまちにそんなかかわり方をしていく医療の専門職の人たちがいたら面白いんじゃないか」と言う。その考えをベースに、屋台というツールを使って、楽しくまちづくりを続けている。(稲葉洋子)


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