保育園に子どもを迎えに行った帰り道にご近所で晩ごはんを食べられたら。そこに多世代が集って楽しく会話できたら――そんなことを考え、文京区在住の佐竹麗さんが、「隣で晩ごはん」というサービスのしくみの研究開発を始めた。2018年春から慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科で勉強中。長年の知人なのでお誘いを受け、テスト開催に参加してみた。
知り合いだと会話が弾む
ピンポーン。「はーい、どうぞ」
本駒込の一軒家、佐竹さんの自宅が実験会場だ。18時半~21時の間の時間帯にご近所さんがやって来て、ホスト役の佐竹さんが料理を提供。会費制で、1000円を払った。
おおっ。野菜たっぷりの健康的な晩ごはん! 豆腐と人参の炒め物、小松菜と厚揚げの煮物、長芋焼き、炊き込みご飯にしらすおろしや桜エビまで!
「いやあ、こんな凝った料理じゃあ、ホスト役をやる人がいないのでは」
「長芋はいただきものだし、豆腐と人参の炒め物は我が家の定番。全然凝るつもりはないけど、人に出すと思うとちょっと張り切っていつもより一品多く作っちゃったりするんですよね。普段のご飯を普通にシェアする気楽なシェアリングの仕組みを目指してるので、その辺のバランスも探りどころです」
やはり、人様に出す料理は気を遣いそうだ。私はホスト役になれるだろうか、と自問しながらおいしくいただく。
集まったメンバーは互いに知り合いが多く、はじめましての方も1人いた。食べながらだと自己紹介がてらの会話も弾む。
「近所にチラシを配るべきか、悩んでいて」と佐竹さん。ほとんどが知り合いなら気楽に来て食事も会話も楽しめるが、知らない人が来た場合はどうなるのか。
「場の安心感が大事。招待制の方がいいかな」「実験なら試しにやってみてもいいかも」「回を重ねるとつながりができる」
感想を言いながら、ゆったりと時間が流れた。アンケートにスマホで回答し、解散。
2050年は半数の世帯が単身
佐竹さんは夫の隆さんと共に働きながら子育てをしてきた。子育てが一段落したいま、なぜ大学院で学び直し?
「私は団塊ジュニアの最後の年代で、2050年に後期高齢者になる。そのころ5割が1人暮らしになると予測されている。家族がしぼむ中、倒れた時に誰がサポートするか。セーフティーネットという点でも近い人とどうつながっているかが大事」と佐竹さんは研究者の顔になって語り出した。
超少子高齢化になって人口はしぼみ、経済は低迷、社会保障も細る。そんな社会で「年寄りが浮かない顔をしていたら閉塞感が募る。経済や社会環境の側面から解決法を模索するのも必要だけど、なにより、私たち自身が楽しく満たされて過ごしていることが大事なのでは」。そう考えて、ご近所がつながりあい、助け合う持続可能なしくみを研究しようと思ったという。
エアビーのごはん版めざす
最初はご近所の便利屋のようなしくみを検討したが、すでにそのようなサービスがあった。そこで、晩ごはんに注目。「ご近所でちょこっとお金のやりとりをして食べるというしくみはどうかと思った。Airbnb(民泊)のごはん版みたいなイメージ」
2018年12月から実証に入り、データを集めている。「ここで提供できる価値は何か、探っていきたい」。ホスト役の担い手、ご近所の範囲、安心できる場をどうつくるかなど、検討することはたくさんあるが、気負わず、長く続けていけるしくみづくりを追求したいという。
実は1月から4月まで、英国に滞在し、ケンブリッジ大学で研究中だ。帰国までの間は隆さんが月1回程度開催、4月末の帰国後は週1回をめどに開催予定だ。夏までにホスト仲間を募り、秋にかけて複数拠点でのテストを行う予定だという。隣で晩ごはんテストページはこちら。問い合わせ先も掲載予定だ。(敬)