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クラフトビールめぐり/障がい者の就労支援、ぶれない芯と挑戦心で「方南ローカルグッドブリュワーズ」

丸の内線方南町駅を出てすぐの商店街に、「生ビール冷えてます」ののぼりがはためく。窓に描かれている黒いはしご状のデザインは、丸の内の線路をイメージしているという。「方南ローカルグッドブリュワーズ」。ローカルグッドは地域貢献、ブリュワーズはブリュワー(醸造士)の複数形、つまり醸造士たち。就労支援の事業所であり、地域に根差すことをめざしたマイクロブルワリーだ。

「商店街を盛り上げよう、福祉にも厚い街にと、できた場です」と、醸造責任者で職業指導員でもある田中大喜さんは言う。運営法人代表がかつて方南町に住んでいた縁で、方南銀座商店街やNPOと共にアイデアを出し合い、そば屋だった店舗を改装して2022年3月にオープンした。運営しているのは一般社団法人ビーンズで、障がいのあるバリスタや焙煎士が活躍するコーヒー焙煎所や、放課後等デイサービス、グループホームの運営を手がけており、方南ローカルグッドブリュワーズも就労継続支援B型といって、障がいなどがある人に、就労の機会や生産活動の場を提供する福祉サービスの事業所として運営している。

田中さんは醸造士であり、指導員でもある。ほかの福祉スタッフも含めてマンツーマンで、モルトの仕分けから仕込み、販売、洗浄まで、「一から十までやってもらっている」という。事業所利用者でビール醸造作業にかかわっているのは7~8人。それぞれに得手不得手があり個性もあるので、その人に合わせた作業を、その人が理解できる伝え方で伝え、醸造の技術は確実に上がってきた。「ジャパン・グレートビア・アワーズ」で賞がもらえるぐらいにレベルアップしたという。

「クリーンで飲みやすい」「上品な香り」「さわやかさ」といったテーマに忠実に、ぶれない芯を持ちつつも、配合を調整し積み上げていって、新しいことを毎回の仕込みで実践しているという。「たとえば『方南I.P.A』は、オーストラリアンスタイルのIPAですがブラッシュアップ中です」。テイスティングさせてもらうと、まだ醸造途上だが、マンゴーやパッションフルーツといったトロピカルな香りが豊かだ。ほかに、イギリス系の「ローカルグッドエール」は、クラフトビールを飲みなれない人でも飲めるものをめざしている。「すいすい飲めるのが多いねとか、いくらでも飲めちゃうと言われます」と田中さん。

商店街の一角にあるパン屋さんのパンを使った「パンエール」というのもある。高級食パンがビールになったら? というアイデアから生まれたそうだ。パンは小麦なのでビールと相性がよい。本当にイギリス食パンをちぎって原材料の中に入れており、豊潤さを演出。バナナのような香りを残しつつ、苦みの少ないタイプに仕上がっている。

田中さんは日本酒とビールを作る会社に勤めていたが、自分の作りたいビールを実現できる場を求めて転職。ビール作りを通して別の経験もしたいと、方南ローカルグッドブリュワーズを選んだ。「ビール作りは自分の表現の手段。熱中できるもの。結果が出るのに1カ月はかかり、思うようにできないことが多いけれど、おいしいものができたとき達成感があって、面白い」という。さらに「さまざまな個性のある人と仕事をする中で、伝え方ひとつもいろいろ考えながらやっているので、自分も成長させてもらっている」

自家醸造のビールは店頭でも飲めるが、すぐ近くの姉妹店の「はじまりの餃子とつながりのビール」でも提供している。方南町は芸人や音楽関係者ら個性的な人が集まるまちのようで、この店でも時々イベントを開いているという。田中さん、実は世界の民族音楽のコレクターで、DJもやっており、自称「脇道を行く人生」。音楽イベントの企画もやるというから、ビールを飲みながら、音楽も楽しめそう。方南町、おもしろい。(敬)

方南ローカルグッドブリュワーズ(杉並区方南2-11-7 ​方南銀座商店街内)

営業:月水木金 10:00~17:00、土 11:00~21:00  定休日:火、日 ※営業日等はInstagramで要確認

はじまりの餃子とつながりのビール(杉並区方南2-13-9)

水~金: 17:00~22:00、土 12:00~22:00  日、祝 12:00~21:00  定休日:月、火

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