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7坪の「まちのコンビニ」から広がる輪/茗荷谷のこだわりの食品と総菜の店「キクヤ」

京都丹波産鹿の自家製ラグーパスタ、自家製米粉パスタのグルテンフリーラザニア、自家製麹甘酒を使ったピクルス・・・冷蔵庫をのぞくと、こだわりのお総菜がずらり。茗荷谷駅から茗荷坂を下り、拓殖大学の東門の向かいにある「キクヤ」。店内にはほかにも有機いりごま、有機トマト缶、胚芽食パン、有機純米酒、自然派ワインと、主食でも総菜でもお酒でも、何でも揃いそうだ。

実際、お客さんはご近所さんが多いという。「スーパーに行くのが面倒で、ここで済ませようという方が多いですね。コンビニみたいなもんですよ」と、店主の菊川隼人さんは笑う。「広さ7坪の小さな店なので、希少性のあるものをいかに並べられるかが大事かと思っています」

開店は2022年11月。きっかけはコロナ禍だった。もともとは調理が専門で、当時は東京スカイツリー内にある大きなビアホールで働いており、朝早く家を出て、家には寝に帰るだけの生活だった。「もうちょっとお客さんと距離が近くてコミュニケーションがとれる仕事をしたいな、と思っていました」。毎日茗荷谷駅に向かう途中に通る道沿いの空き物件が目に留まった。

妻の菊川知子さんが区内のオーガニックスイーツカフェ「KNETEN(クネーテン)」を経営しているので、食材の倉庫にどうか、有機野菜を扱う八百屋にしようか、などと思案していた。かつて勤務したオーガニック食品メーカーに相談したところ、有機食品の卸業者を紹介してもらい、小売店としてスタート。コロナ禍で多くの人が家でご飯を作って食べるようになったため、少しでも夜ご飯の足しになるものをと、店内に調理スペースを設けて総菜販売を開始。

客の要望に応えていくうちに、イートインスペースとしてカウンターとイスを置き、お酒も扱うようになった。屋外には菊川さんがDIYで作った机とベンチが置いてあり、「角打ち」もできる。「宮崎のスーパーに行ったとき、お酒販売コーナーに飲むスペース、いわゆる角打ちがありました。つまみは店内で買ってね、というしくみ。あ、こういうのいいな、と思って」

「いいもので珍しいもの」を追求している。知り合いのつてで仕入れることも多い。出身は三重県で、伊勢神宮の近くで生まれ育った。甘辛いたれでおやつのように食べる「伊勢うどん」や、サメを食べる文化がある伊勢志摩の知り合いの会社で扱っているサメジャーキ―、同級生の家の敷地内にある自家焙煎コーヒー「なかむら珈琲」、オーガニック麦芽とホップで醸す桑名市のクラフトビール「上馬(あげうま)ビール」など、普通のお店では手に入らない品物がずらりと並ぶ。友人がデザインしてくれたロゴは、キクヤという文字をアレンジしたものだが、伊勢神宮を思わせる鳥居のようにも見える。

ドライフルーツのデーツ(ナツメヤシ)も売りの一つだ。いろんな種類がある。店内で揚げる唐揚げや、クネーテンのお菓子も売れ筋の一つだという。お弁当も販売している。

過去にライブレストランで働いていたこともあり、イベントが好きだ。これまでいろいろ企画してきたが、定着してきたのは、三重県・答志島から直送の「桃こまち」というブランドカキと、それに合う日本酒を飲むイベントだ。まだまだ試行錯誤が続いており、25日(土)にはロシア料理とエスニック料理のコラボイベントを開催する。

わずか7坪なので、空間は天井まで無駄なく使っている。それでもさすがにイベントには足りないので、表に屋台を出す。「屋台は面白い。可能性を感じる。屋台イベントが軌道に乗れば出張イベントなどもやってみたい」という。店内の商品のうち、希少性の高い商品の割合は3割ほど。もっと増やしていきたい。もともと料理人なので小売店の経営はまだよくつかめていないが、「このフォーマットに可能性を感じている」という。ここでしか買えない商品を集め、ここでしかできない体験を提供できれば「すごいことになるかも」。

9時開店で20時閉店。不定休で、休みは夏と冬にまとめて取り、旅行に出かけた先でいいもの、珍しいものを発掘する。働きすぎでは?「いえいえ、のんびりやってます」。お店を手伝ってくれる人がいるので、日中一時帰宅して夕飯を仕込んだり、マンション管理組合の理事長なのでその関連の仕事をしたり、商店会の会合に顔を出したり。「人とのつながりが増えていくので、仕事をする上でのヒントやネタがそこらじゅうに転がっています」

オムレツをパパっと作ったらプレミアム感をもってくれる人がいた。乳牛のオスは通常は廃棄されるが、わざわざ熊本で育ててソーセージに加工している人がいて、採算度外視で買ったものの売り切れず、パスタにしてみた。「ドラマ『深夜食堂』みたいな感じで。人が喜ぶことを生み出せている実感があるし、わざわざやらなくていいことをやっているときが楽しい」

こういう体験やまちで拾い集めたヒントを、まだうまくはめきれていない気がしている。ちらばっているパズルをはめこんで形にできれば、ここだけではないビジネスモデルができるのではないか。地域のニーズに応えながら発展してきたキクヤのような「まちのコンビニ」が、あちこちにできるとおもしろい。そんな夢がおぼろげに見えてきたという。(敬)

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