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うたに込められた先人の知恵/遠野のわらべうた受け継ぐ木津陽子さん

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「まず赤ちゃんと目と目を合せましょう」。遠野に通い詰め、古くから伝わるわらべうたの伝承を受けている木津陽子さんが言うと、お母さんたちが赤ちゃんを正面に向かせ、あるいは自分が正面に回り、目と目を合せた。「少し高めの声で、のどを震わせて言ってください」と言うと、木津さんは高い声で言った。「ンコー」

 

「うんこ語り」と言われる、新生児向けの語り掛けだ。「仙台ではオンコー、関東ではオックン、などと言います」と木津さん。生後まもない赤ちゃんが反応して「ンコー」と返すことがあるという。

 

 5月21日、世田谷区のおでかけひろば「ぶりっじ@ROKA」で開かれた「わらべうたで子育て」のイベントには、9組の親子が参加していた。唇を震わせてブルルルーとやったり、舌を左右に動かす様子をみせながら「れろ、れろ、れろ」。手を手首から返しながら「てんこ、てんこ、てんこ」。手を握ったり開いたりしながら「にぎ、にぎ、にぎ」。赤ちゃんたちはお母さんの手を見つめ、声を聞いている。

 てんこてんこてんこ2(てんこてんこてんこをやる木津さんのまなざしは優しい)

 

中にはつられて手を動かす子も。「あー上手上手。ちょっとでも動いたらたくさんほめてあげてください」。首が据わった子には「かんぶ、かんぶ、かんぶ」と首を振ってみせる。お座りができたら、手をたたきながら「手打ち、手打ち、手打ち」。

「単純でリズムがある言葉の繰り返しが大切です」

 あわわ(お母さんたちもさっそく「あわわ」を実践)

 

でも、これがわらべうた? 「わらべうたはもともと、声掛けや会話にリズムをつけたものにメロディーがついたもの。0歳から13歳まで、年齢に沿ったうたがある。これは赤ちゃんのあそびうたです」と木津さん。赤ちゃんのあそびうたは、なつく、嫌、恥ずかしい、感謝、など七つの気持ちを表しているという。比較的知られている「ちょちちょち、あわわ、かいぐりかいぐり、とっとのめ」は、恥ずかしい(恥を知り)、口を慎む、耳の穴をえぐって(人の話を聞く)、とっと(鶏)の目(ものごとをよく見る)、という意味が込められているそうだ。

 

途中で飽きたり、眠くなったりで、ぐずぐず言ったり、泣きだしたりする子もいた。そんなとき、木津さんが子守歌をうたい始めると、あら不思議。次第に赤ちゃんたちが木津さんの高めのやさしい歌声に耳を澄まし、シーンとなった。「大切なのは気持ちの響き合い。目を合せること。反応があればほめること。何より、赤ちゃんもひとりの人と思って接してくださいね」

 

木津陽子さん(木津陽子さん)

 木津さんは、自身の子どもが赤ちゃんのころ、地域に開放している保育園に遊びにいき、わらべうたに出あった。懐かしい気持ちになり、落ち着いたという。子守歌を覚え、当時夜泣きが多かった子どもに歌ったら、夜泣きが収まった。「よく泣くのでどこか悪いんじゃないかと不安で不安で。でも子守歌を歌うようになったら、自分が落ち着いたからか、寝てくれた。赤ちゃんは親が不安なら不安になるのだと思う」。それから、わらべうたにはまった。わらべうたを教える人のもとに通い、お散歩中も、虫が飛んでいたらトンボのうたを、雨が降ったら雨のうたをという具合に、生活の中に取り入れた。

 

あるとき、遠野の伝承者、阿部ヤヱさんのもとで研修があるという話を聞いた。当時子どもは2歳。その半年後に夫は南極観測のため長期不在になる予定だった。そうなると外出もままならないだろう。「一生に一度のお願いだから」と夫に頼みこみ、遠野に行った。これが第二の転機に。以来、「一生に一度」が何度も続き、多いときで年3、4回、13年間で30回、通い詰めた。

 ばんざーい(赤ちゃんのあそびうたの最後は「ばんざーい」。自分をほめるという意味がある)

 

かつて、夜はお年寄りが昔ばなしを語り、なぞなぞで考える力をつけ、わらべうたで知恵を伝承した。これが子どもの教育の3点セットだったという。わらべうたには、あそびうたのほか、自然への呼びかけのうた、はやしうた、子守歌がある。家々には秘伝のわらべうたがあったそうだ。表の意味と裏の意味があり、たとえば、山吹の枝を取に行った、といううたは砂金を取りに行くうた。男女の交わりを表す隠語も含まれ、そのうたを歌って子どもが何かを感じるようなら、もう子ども扱いはしない、など、「察する」人を育てたという。うたにはその土地、その土地の「念」が入っている。「生まれた土地のうたを歌うといいですね。でもたとえば子守歌などは、自分が知っているうたを歌うだけでもいいと思いますよ。毎晩、同じうたを歌うといいですね」

 

ぶりっじ@ROKAでは月1回、木津さんのわらべうたの講座を開く。いずれも木曜日で、年内は6/4、7/2、8/20、9/3、10/1、11/19、12/3。詳細はぶりっじ@ROKAブログで。


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