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まちに刺激、変革の可能性/石巻工房東京ショールーム、小石川にオープン

スツールなど

 

文京区小石川、小道が入り込む住宅街の一角に、石巻工房の東京ショールームが6月17日にオープンした。印刷工場だった木造2階建てを一部DIYでリノベーションし、1階には小さな工房を併設、2階には和室やベッドルームがあり、暮らしのシーンで使える石巻工房の家具が展示されている。展示だけでなく、5月にはすでにスイス人デザイナーが来日して東京と石巻でデザインワークショップを開いており、まちに刺激を与え、変革を起こす可能性を秘めた場所になりそうだ。

外観

(元印刷工場を改装)

 

石巻工房は、小石川に建築事務所がある芦沢啓治さんが、被災した顧客の支援のため石巻に通い、住民自らが壊れた家をDIYで直せるようにと、市民工房をつくったのが始まり。工業高校の生徒と一緒に野外映画会用のベンチを造ったり、世界的家具メーカーのハーマンミラーの職人がボランティアとしてやってきて、仮設住宅で使える縁台を造ったり。国内外のデザイナーがプロボノ的にかかわり、DIYでできるアウトドア家具を次々にデザインした。

AAスツール (トラフ建築設計事務所がデザインしたAAスツールや芦沢さんがデザインしたスツール)

 

工房長を務める千葉隆博さんは「商店街は1階が津波の被害で壊れたが、2階は無事だったのでみんなそのまま住んでいた。技術もお金もなく、壊れたところを直したいけど直せなくて、流されてきた畳などをドア代わりにしていた」と振り返る。千葉さん自身も寿司屋で、津波で被害を受けた。市民工房ができ、DIYで店舗を直した人もあり、芦沢さんらの活動を手伝ううち、手先の器用さを見込まれて「工房長という名のアルバイトを始めた」。そのうち、商品が売れるようになり、海外の家具見本市などでも評判を呼び、事業は拡大していった。「モノをもらう支援とは別の、家具のつくり方という支援をもらった。たとえて言えば、魚をもらうのではなく、魚の釣り方を教えてもらった」

 

3人

(左から千葉さん、芦沢さん、松崎さん)

 

ハーマンミラージャパン社長の松崎勉さんは「デザインは問題解決のためにある」と話す。全世界の本社・支社からの公募で年1回、問題解決のためにデザインを生かすボランティアプロジェクトが選ばれる。ハイチ地震やインド洋津波でもボランティアが派遣された。2011年は松崎さんの提案で石巻への支援が採用された。トラック1台分の木材や必要最低限の機器を石巻に持ちこみ、著名なデザイナーや職人約10人がボランティアで現地に行き、市民や子ども向けのワークショップなどを実施。松崎さんは「小さな産業をつくりましょう、と。簡単なことではないが、雇用をつくりたかった」と話す。ちょうど、木製家具が時代の流れにあってきた時期とも重なった。

 入口方向(1階は展示だけでなくワークショップもできる)

 

石巻工房は昨年3月、株式会社化した。芦沢さんは「みなさんから知恵をいただき、デザイナーの協力を得てやってきた。石巻で一番いい会社にしよう、と千葉さんと話している」と言う。ここまでやってきて感じるのは、家具は技術の末にできたものではなく、知恵の積み重ねでできたものだということ。「DIYにもいろんな技法があるんだと、我々も学んでいる。これからは知恵の時代。技術だけでなく、知恵の積み重ねで勝負したい」

茶の間

(2階では生活シーンで石巻工房の製品を見せる)

 

ショールーム(小石川3-31-7)見学には事前予約が必要だ。詳細は石巻工房ホームページで。(敬)

 


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