被災地のDIYから誕生した「石巻工房」が7月3日、復興バー銀座店にやってきた。石巻工房の代表は、文京区に事務所を持つ建築デザイナー、芦沢啓治さん。やはり文京区に事務所がある建築デザイナー、大塚彰宏さんもかかわっており、この日は芦沢さんも「マスター」となり、大塚さんは注文取りで大活躍。石巻の工房長、千葉隆博さんも上京し、元寿司職人ならではの腕前で穴子寿司を握った。
(芦沢啓治さん=左、千葉隆博さん)
石巻工房は、芦沢さんの顧客が被災したことがきっかけで、石巻市中心街のDIYの拠点として2011年、市民工房から始まった。芦沢さんや大塚さんら建築関係のデザイナーが通い詰め、地元高校生とのワークショップでは野外映画会用のベンチを製作。世界的な家具メーカー、ハーマンミラーのデザイナーらもボランティアでやってきて、仮設住宅に置く縁台や、隣人同士で酒でも飲みながら交流できるようにと、ミニテーブル(おかもちテーブル)などがワークショップで生まれた。被災地のちょっとしたアウトドア文化とDIY、そこにデザインをプラスし、家具をブランド化。現地の工房で5人のスタッフが注文生産を始め、ミラノやパリの見本市にも出展し、国内外から高い評価を得ている。
(大塚彰宏さん)
「復興バー」は石巻工房が手伝い、天井まで浸水した店をDIYで改装した石巻市内の小さなバー。昨年から期間限定で、銀座でもパーティー形式で開設している。復興に携わる人たちが「1日マスター」になり、薄れつつある震災の記憶と被災者の現状を東京に伝える役割を果たしている。
「石巻工房の夜」では、津波に流されキッチンカーから再出発した料理店「松竹」社長の阿部久利さんが調理する雲丹パスタ、銘酒日高見や、復興バー名物のパイン泡盛などの特別メニューがずらり。工房長の千葉さんは、営んでいた寿司店が津波で流され、母を亡くし、米国の寿司店で働く決意を固めていたが、ビザがおりず、そうこうするうちに、趣味の日曜大工の腕が買われて石巻工房に。「あのときビザがおりていたらこうならなかったよね」と客に声をかけられながら、慣れた手つきで穴子寿司を握っていた。
(千葉さん。奥はハーマンミラージャパン社長の松崎勉さん)