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文京区の公衆便所巡りをしてみた/「猫又橋際」?不思議な建物からスタート!

護国寺から不忍通りを上野方面に向かい上ったり下ったりして、千石三丁目のバス停の先に、歩道の脇に数本の立派なクスノキが植えられた緑地がある。その不思議な建物はクスノキの隣にある。

「猫又橋際」とかかれたこのコンクリの建物、実は公衆便所。以前から、場所といい、名前といい、不思議に思っていた。「猫又橋際」というのは地名なのだろうか。

「東大農学部際」公衆便所

文京区では普通の路上で唐突に公衆便所と出合う。白山下から白山上へ坂道を上りきった角や、東大農学部の塀沿いとか。東京23区には、どこにも公衆便所は一定数あり、文京区が取り立てて多い、ということはないのだが、他の区は設置場所が公園や駅前、橋の下のデッドスペースにある。

「猫又橋際」公衆便所について調べようと、役所を訪れてみた。さて、どの課を訪れたらいいのか。受付に聞いてみる。

「公衆便所ですか…」。困っているようす。土木部だろうということは分かったが、どこの課だろうか。結果、みどり公園課計画担当の主査、松井和彦さんからお話しを伺うことに。

護国寺門前にある公衆便所

「公衆便所のことでお聞きしたいのですが、千石三丁目に『猫又橋際』と書かれた公衆便所がありますね?」

「あー、あそこは、今年中に取り壊しになります」。

「えーーー!!どうして壊すんですか。名前だってすごくおもしろいじゃないですか!!」

「誰も利用していないからです」

確かに、人が利用しているの見かけないなあ、「猫又橋」便所。それにしても取り壊しとは。

気を取り直し、質問する。

真砂坂公衆便所

路上の公衆便所は区内にいくつあるのだろうか。「現在、25か所ですが、『猫又橋際』がなくなると24になりますね」。いわゆる公衆便所とは、道路敷地内や、公園でも道路に面した所に条例により設置し、主に通行者の利便をはかったものという定義があり、児童遊園の中の方にあるものとは区別されている。児童遊園便所と公衆便所となにか違いがあるのかというと、特にないという。

お茶の水橋際公衆便所の近くには喫煙所があり人がたむろしている

最初から25あったのだろうか。「いえいえ、少しずつ増えていきました。初めて作られたのは大正14年『富坂上』で、『猫又橋際』は、翌大正15年にできて、昭和53年に改築され今に至っています」。役所2階の情報室に資料があり、コピーができるというので、あとでコピーした。

それにしても、大正14年って、94年前! そんなに古くから公衆便所があったとは驚く。一番新しく設置されたのは、平成10年に作られた、「駕籠町」と「根津神社表参道際」だ。

25の公衆便所は余っている土地に適当に作られているのか? 「ひとつの便所の半径500メートル以内には設置しないことになっています」

名前は、作られたときの町名なのか。「町名とは限らず、橋とか坂の名前を付けたところがあります」

「猫又橋際」の道路の反対側に、植栽や休憩スペースがあるポケットパークがあるが、公衆便所を取り壊したあと、同じようなポケットパークにする予定だという。「ポケットパークに『猫又橋際』の名前は残ります」

「猫又橋」って名前も気になる。図書館に寄り、由来を調べてみた。文京区の教育委員会文京ふるさと歴史館発行の「ぶんきょうの歴史物語」(初版昭和63年3月18日)の「伝説」の項目に以下の記述があった。あとで「便所巡り」をしたとき、向かい側のポケットパークに、二つの立て札があるのを見つけたが、そこにも同じような由来が書かれていた。

続江戸砂子(享保二十年<1735>)の記述によると

「むかし、この辺に狸がいて、夜な夜な赤手ぬぐいをかぶって踊るという話があった。いつの頃か、大塚辺に愚かな道心者(注・少年僧)がいて、巣鴨の非時(注・法事の午後の食事)に招かれての帰り、夕暮れどきに、すすきやかるかやの茂る中を白い獣が追ってくるので、すわ、狸かと、あわてて逃げて千川にはまった。それから、狸橋、猫狸橋、猫又橋といわれた」

「千川にかかる猫又橋から、東側の白山台地にかかる坂は、猫又坂と呼ばれるようになった。明治末から大正期にかけてまで、千川の流域は田んぼで、猫又橋周辺は“氷川田んぼ”といわれる田園地帯であった」。橋は昭和9年まであったという。

みどり公園課に所蔵されている「機密文書」の妖怪の記述を見せてもらった。文書には、まるまる太った猫の絵が描かれていて、「猫又っていう妖怪なんですよ。猫の尻尾が二股に分かれているので猫又っていうんです」。どうやら二股の木で橋が作られたというのが本当の話らしいということだ。

後日区内のほぼすべての公衆便所を巡ってみた。いくつかおもしろいものを見つけた。一番高級感があるのは、播磨坂途中にある煉瓦作りのような便所。湯島聖堂の壁に穴が開けられ、中が便所というのもおもしろかった。まちによって公衆便所が存在しないところもある。神田川沿いには、橋の際にたくさん存在していた。

巡ってみて感じたのは、文京区内には余乗している土地がたくさんあり、公園や駅前以外にも公衆便所を設置する余裕があったのではないだろうか。その結果、公園や駅前や橋の下のデッドスペース以外に、路上の公衆便所が数多く作られてきたのでは。東大の塀沿いの道も、たしかにタクシーが何台も駐車できるほど広い。

ある区では、アート公衆便所というものを作っているという。子どもや女性が安心して利用できるような明るいデザインを、という思いで、プロジェクトを作り、「パブリックトイレマップ」を作成したり、地域で行われる行事などを参考に、壁画アートに取り組んだりしているという。文京区でも地域の特徴をいかした新しい公衆便所作りに取り組んだらどうかと思った。(稲葉洋子)

文京区内公衆便所一覧

富坂上       春日1-13-13

猫又橋際      千石3-13-14

白山坂上      白山1-37-1

根津神社境内    根津1-29-9

江戸川公園内    関口2-1-1

後楽橋際      後楽1-2-12

お茶の水橋際    湯島1-5-14

聖堂際       湯島1-4-19

農学部際      向丘2-1-11

西片公園内     西方2-3-3

蓬莱町       向丘2-27-9

浅嘉町       本駒込1-1-14

駒込公園内     本駒込3-18-17

窪町東公園内    大塚3-30-5

湯島天神境内    湯島3-29-5

護国寺前      大塚5-40-7

関口一丁目     関口1-9-10

船河原橋際     後楽2-1-7

柳町        小石川1-23-3

後楽公園内     後楽1-6-25

白鳥橋際      水道1-1-5

真砂坂       本郷4-13-5

播磨坂       小石川4-17-11

駕籠町       本駒込2-28

根津神社表参道際  根津1-28


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