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表現を止めないで。静かに開催「芸工展2020」㊤

毎年、谷根千地区で10月いっぱい開催される、「芸工展」。同時期の近辺の「まつり」が軒並み中止となる中、できるところで実施しようと、準備が進められ、2020年10月1日に開始となった。一軒一軒レポートしようと思ったが、出展はいつもの3分の1くらいとはいえ、30を超える。結局、6か所をレポート。新しい出展は毎年増えていく。「まち」を作ろうとする人がいる限り、少し形を変え増えていくだろう。

最初に、事務局一人、渡真利紘一さんに、今年の芸工展をどう進めようとしているか聞いてみた。

「誰かの決断を待つのではなく、個人に責任を押し付けることではなく、結論がどうであれ、みなで、一歩を踏み出すことができるか」と考えたという。とにかく、1度みんなで集まって、「今の気持ちを聞いてみよう」ということになり、密に配慮して、アンケート筆談形式の集いを開いた。

そのアンケートの一枚一枚に綴られた思いを読み、気づけば新しいパワーが生まれていた。「賛同人一人一人の想いから、芸工展を継続することをみなで決断できたことは、よかったと思います」。だれかの指示ではなく、「みなでともに」決めてよかったという。

10月11日(土)は、台東区谷中2丁目赤字坂にある、「ギャラリーTEN」で開催されている、15人のアーティストによるグループ、「チームPHASE2020」による、「PHASE2020番外編6『マスクマスクマスク』を鑑賞。

15人の作家が、それぞれの表現で、『マスク』をテーマに作品を展示。

出展者の一人で、芸工展の事務局でもある、村山節子さんはいう。

「表現は止まらない、止めちゃいけないと思っていた。できる範囲でできることをやれればいいかなということで、今年の芸工展の呼び掛け文は、『ゆるやかに、静かに』というものにしました」

「ここでの展示は、テーマは『マスクマスクマスク』。マスクは、まさに地球全体に投げかけられた、コロナから来ている、なかば強制的なもの。その『マスク』をきっかけに、15人の出展者がそれぞれ受け止めたものを作品化した」という。コロナ禍の想いをマスクを通して、作品にした展示だという。「受け止め方も気づきも違う、次は、その違いを共生していかなければいけないと思います。多様さを共生するというか、それがすごく大事かと思っています」

同日、谷根千記憶の蔵へ向かい、「D坂シネマ2020」に参加。「D坂シネマ」自体は35年近く前に始め、芸工展への出展は20年以上となるという。今年は、10月10日、11日に開催された。蔵は普段は座席数は20ほど。今回は10席ほど。なかなか見ることのできない、1960~70年代の映画を上映する。「わが国の野菜供給のしくみ」「おしどり家計簿」そして「フランスはぶどうの村で」の3本を観た。日本の農家の生活とフランスの農家の生活がすごく違っていて、おもしろかった。

主催者の山﨑範子さんは、「見ての通り、映画は室内なのでね、今回は、こんなに人数を少なくしてでもね、それでも中川さん(映画保存協会、中川望さん)と2人でやらずにはおれないっていう気持ちです」

「D坂シネマをこんなに続けてきて、『みせたい映画』が溜まるんですよね」という。「見せたいという自己満足はあるかな」

「この間に、映画をよく見に行っていましたが、今、座席の前と左右がいないでしょ。あの感じが、あまりにも心地よくてね、もう2度と混んだ劇場に行かれないのではないかという気がする。それもひどいなあという気もするんだけど」と笑う。「そういう怖さもありますよね。慣れちゃうことの怖さ。『なくても平気』になっちゃう怖さ」

続けることの意義がここにあると思った。見る方にしても、「見なくても平気」に慣れていったら、衰退していく。「見よう!」と思った。(稲葉洋子)※㊦に続く


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