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日替わり出店のバーテンダー、キャリアに出合う場で人をつなぐ/町屋の「あらあむスタンドバー」朝日よし美さん

小竹橋通り沿い、町屋8丁目の、「あらあむスタンドバー」。昼間のバーと聞いて「おもしろそう」と、知人に連れていってもらったのは3月。店の前の歩道には人だかりが出来ていて、お客さんはもちろん、立ち止まって店を見たり、中を覗きながらゆっくり通り過ぎていったり、人さまざま。店長の藤田晴子さんが和服姿でお客さんを出迎えたり、交通整理をしたり、質問に答えていたり、バーテンダーの朝日よし美さんは、カウンター中で、外で、注文を受けたりシェーカーを振ったりしていた。

古びた建物で、シャッターを閉めていたら気にすることもなく通り過ぎてしまいそうだ。ところが開店するとそこは別世界。お洒落なバーが出現するのだが、店舗の中はカウンターを挟んで店長とバーテンダー、たこ焼き屋さんで窮屈そう。お客さんが4人~5人も入ればいっぱいになるという大きさだ。

店舗の隣の駐車場には、近隣で仕事をしているらしき男性のグループが複数テーブルを囲み、ドリンク片手に、たこ焼きをおつまみに、おしゃべりに興じていた。ベビーカーをひいたお母さんの姿も見える。道の交差点が人の交差点になっているようだ。この時は緊急事態宣言は出ていなくて、ビールもカクテルも正真正銘のアルコールだったが。。。

2度目にお店を訪れたのは、5月後半。この時は、店長の藤田さんが「ビールもカクテルも全部ノンアルですよ」と笑った。メニューにも全部「ノンアル」が表記されていた。食べ物の出店は、この日はクレープだ。

「この場所は、建物オーナーさんから、杉本さんという方が借りて出店者を募り、日替わりで貸し出しているのです」と藤田さん。「ニュー阿波屋」という名称のプロジェクトで、日替わりで飲食店や花店などに早変わりする。藤田さんは、バーテンダーの朝日さんともう1人の3人で借りて、月に2回ほど「あらあむスタンドバー」を出店している。

藤田さんは、「こういう形で、あちこちにバーを出店してみたい」と思っているという。「シャッターが閉まっていても、オーナーさんは貸すことを躊躇しています。こういうふうに気軽に店を出すという形が広がれば、『じゃ、貸そう』という人も出てくるかも。掘り起こしていくしかないですね。まず、店の周辺含め盛り上げて、いろいろな人が交流できるような場を作って、いいなぁと思ってほしい」という。

大荷物を抱えたバーテンダーの朝日さんが「どこを探しても、グレナデンがないのよ、あきらめた」と言いながら、駆けつけた。開店の合図があるわけではなさそう。「店ってもう開いているのですか」、と聞くと、「はい、ゆるりゆるりと」とにっこり。

朝日さんにお話を聞いた。「7年くらい前から地域での仕事として、個人で地域のママのお仕事相談所『キャリアカフェ』というのをやっています」。キャリアの本来の意味は「働くことにまつわる“生き方”」だという。いろんな人が集まって、様々な話をしながら、楽しく自分のキャリア(=働き方、生き方)に出合える場所にすることを目的に運営している。出展者(専門家)と参加者がお茶しながら話をする場であり、人生や仕事・キャリアに悩む人たちが、ふらっと気軽に専門家に相談をしたり、気軽に話を聞けたりする場だ。特に困ったことがなくても、考えがまとまっていなくても参加できる。おしゃべりや空気感の中から、見えてきたり気づけたりすることがあると朝日さんは言う。

これまで、北千住や南千住など東京の東側を中心に、あちこちの飲食店のコーナーを使い開いてきた。「本業は、飲食専門の採用のサポートや集客、開業などをしている会社で、『つなぐ』ということを目的としているので、本業ともつながると思いました」と朝日さんは言う。

コロナの影響で、住まいがある荒川区にいることが増えた。自分の町をもう少し知ろうと思って、ママチャリで区内をいろいろ散策してみたら、飲食店がどんどん閉まっていくのを見た。「店の人が相談しにくる場所はあるのだろうか」と心配になったという。それで、「地域での活動に本腰を入れてみよう」と決め、1月に「ニュー阿波屋」のプロジェクトを知った。「経営者の杉本さんに、一緒にバーをやろうと言っていただいて。私は、もともとお台場のホテルでバーテンダーをやっていたので、じゃあバーをと。バーって、カクテル作ってお客様の接客をして、人をつなぐ場所だし、大人が相談しに来る場所だなって思っていたのです」。「あらあむ」という店名は杉本さんが作り出したキャッチで、「点と点をつなぎ、荒川を編んで面にする」という意味だという。

出店当初はたこやき屋さんを入れて4人のメンバーだったが、本業がエアコン屋さんのたこやき屋さんが繁忙期に入り、今は地域のクレープ店と組んでいる。地域で活動する人の食事をここでと、みんなで宣伝をしている。「バーに食べ物屋さんを組み合わせることで、その人の活動とお客様など、いろいろな人のつながりを作っています」

「キャリアカフェ」は活動拠点を増やして、エリア拡大をめざしているそうだ。これまでの出会いから、地域の活動をしている人や誰かのために動いている人は、専門的な情報や知識を持って、人と人をつなぐ力も持っていると思った。「じゃあ、その人たちができないことを私たちがやれたら」。それはなにか。点と点をつなぎ、面を編んでいくこと。「キャリアカフェでどんどん人とつながることができる、もっと多くの人にそういう場を提供したい。カフェへの参加を自分のキャリアに生かしていけるようになったらいいなと」。活動を通して、朝日さんご自身が、自分のキャリアと出合い、本業の仕事に大きく反映させているのだろうと感じた。

「あらあむスタンドバー」は期間限定6か月間の営業予定で、8月で終了という。次回は6月26日。(稲葉洋子)


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