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まちかどへ、芸術の旅②石垣で等身大の作品がポーズ。子どもアートワークショップ2021年

谷中2丁目、あかぢ坂の石垣に10月24日、子どもたちが描いた等身大の作品が並んだ。作品たちはみな、まるで生きているように大胆なポーズを取り、青空に映えて立っている。等身大といっても、分身というふうではなく、子ども1人1人が縮こまっていたところから解放され、弾けているように見える。跳ねていたり、石垣に寄りかかってリラックスしていたり、鳥になったり。

作品が制作されたのは、谷中2丁目の「ギャラリーTEN」。畳一畳分の段ボールの板に、子どもたちがいろいろなポーズで横たわり、大人が型どりをして、カッターで線に沿って切り、子どもたちが15色の太いポスカや12色のクレパスを使ってぐいぐい描き、好きなように色とりどりに大胆なポーズの自分に仕上げていく。

ぞうしがやプレーパークで、美術家の井上ヤスミチさんが、このワークショップに取り組んでいるのを見て、子ども劇場のメンバーはとても心惹かれ、芸工展でできたらなあと思った。そこで、実行委員のアーティスト村山節子さんに相談すると、このワークショップはすでに10年ほど前に取り組まれていて冊子の記事になっているという。幼稚園や学校を巻き込んで、作品を学校の門や入口に飾りたいと思っていた同じ実行委員の渡真利紘一さんのお2人にアドバイザーをお願いして、今年、1年目はギャラリーTENで、ささやかでもまずはやってみようということになった。

当日、リーダーとなった村山節子さんは、指導するのではなく、子どもたちに画材を提供したり、カッターの使い方を教えたり。渡真利さんもアドバイザーとして、子どもたちに寄り添う。邪魔はしない。

子どもたちは、自らの想像力を使って表現し、その表現を信じて、さらに想像して、さらに表現して。大人の顔色をみることもない。制作中のお手本や完成作品の見本はない。

できあがった作品を連れて、子どもたちは、あかぢ坂を上って30メートル先の石垣に向かう旅へと出発。着いたら思い思いに石垣に立てかける。作品を写真に撮ったり、作品と並んでカメラに収めてもらったり。

「狭い東京では『自由に描ける範囲』もやはり狭い。大きく自由に作れる機会はとても貴重」と、2人の子どもと参加した安達睦さんは言う。また、参加者のお母さんの白井美典さんは、「私は9年間、キッズアートスクールの講師として教室を開いていたのに、我が子にアート活動時間を用意してあげられなかった。この自由さがありがたい」と感想を語った。

そんな自由さが生まれたのは、制作会場が、大きな学校ではなく、小さなギャラリーであることがかえって良かったのかもしれない。また、作品を置く場所が、あかぢ坂の美しい石垣だったことも自由な雰囲気を引き立てた。

「あかぢ坂」は、明治30年代に東京で5番目の土地持ちといわれた渡辺銀行、あかぢ貯蓄銀行の渡辺家により開発された土地だ。根津神社から不忍通りを渡り、参道である藍染大通りに沿って抜けた先を谷中に上がる坂で、神社から上って中腹左側に、どっしりと均整のとれた石垣があり、その上にツツジや紫陽花などが植えられ、美しい景観を作っている。上野方面から根津に自転車で下ってくるときは、この坂を下り、この景色が見たいと思う。

来年もここでアートWSを「またやりたい」という声があがっている。ところが、石垣はマンション建設が計画されていて、取り壊されてしまうという。この先も、石垣の美しさと子どもたちの作品の力強さが相まって、小さな力ながらまち楽しくなるのではと思っていただけに残念だ。住民の会で、「石垣を残し、その上の緑地共々、歴史ある風景を守ること」を求める署名を集めているという。(稲葉洋子)


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