高齢者だけでなく、ひとり親世帯や若者が入居するホームでありながら、地域に開かれたシェアスペースがある。三鷹市にこのほどオープンした「みたか多世代のいえ」は、在宅医療の専門医が発起人となってさまざまな人がかかわり、7年越しで実現したプロジェクトだ。
「生きがい感をどうつくるか。孤独をどう緩和するか。それがテーマです」と、医師の村野賢一郎さんは話す。在宅医療を20年ぐらいやってきて、お年寄りたちが孤独で、抑うつ状態の人もおり、「早く終わりにしたい」「死にたい」と言う人もたくさん見てきた。訪問して診療し、薬を出しても、解決できることではない。どうしたらいいだろうか。

そんな折、ひとり親世帯の生活支援や不動産仲介をするシングルキッズ株式会社の代表山中真奈さんと知り合い、活動に共鳴。これまでにも、子どもや孫が訪ねてくるとお年寄りの目が輝く姿を見てきたので、子どもたちが持つ力を知っていたが、それは血縁でなくてもいい。シニアと親子が暮らせる場をつくろう、と考えた。
住居だけでなく、地域の人が立ち寄れる居場所もつくりたい。そう思っていたとき、静岡県焼津市の商店街の一角にある「みんなの図書館 さんかく」と出合い、これだ、と思った。棚を一つ借りて自分だけの本棚にすることができる「一箱本棚オーナー制度」があり、同様のしくみを採り入れることにした。

村野さんだけでなく、山中さんをはじめ、医療系や地域活動をする団体や人、農家など、さまざまな分野でつながりができ、どんな場所にしたいかの議論を重ねてきた。村野さんの会社が所有する土地に、シニア向け15室、親子向け4室、学生向け2室、多目的室1室、屋上庭園がある3階建てが完成した。

村野さんの家は近所で、3児の父でもあるが、村野さん自身は主にここに住む。だから肩書は「家守・医師」。入居者の希望があれば主治医になるが、それ以前にいち住民として共に暮らすという。
住居部分は細部にこだわっており、階段はコルク、床は転んでも衝撃を低減する素材でできている。
お風呂は手すりのないヒノキ風呂。入浴機器もない。「こう座れば湯船に入れて、浮力で自力であがることもできるのです」と介護担当職員さんが説明してくれた。
「自分でやれることが多いほど幸福度が高い。周りが手を出すほどやれなくなる」と村野さん。これまでの経験もあって、「私らしく最期まで暮らす」もコンセプトに掲げている。
親子や若者向けの部屋にはキッチンがついているが、1階には共用のダイニングキッチンがあり、吹き抜けの天井が高い畳の部屋がある。子どもが大好きになりそうな「洞穴」みたいな空間もある。
屋上には庭園があり、春には隣家の大きな桜の木で花見ができそうだという。
コミュニティスペース「みんなの図書館 とまり木」は入り口付近のスペースで、縁側もある。80区画ある一箱本棚のオーナーもすでにおり、本だけでなく、趣味の品なども飾ってある。
隣接して住居側のキッチンとは別に、営業許可も取っているシェアキッチンも。食のイベントも料理教室もカフェもできそうだ。
一箱本棚は月額2000~2500円で、会員は畳の間やキッチンを安く借りられる。「土日だけ借りるなど、チャレンジを応援する場所にもしたい」
村野さんは「一箱本棚は80人80色でいい。みんなの図書館とまり木は人と人がつながるところ。病気の人もそうでない人も、どんな年齢の人も、顔の見える関係を築けたら」と話している。19日にも内覧会が予定されている。詳しくはサイトで。(敬)