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熱い演奏とトークで魅了/津軽三味線の山本大さんが千駄木でライブ

ピックを使って強弱をつける。静かなのにブルースのような情熱。津軽三味線演奏家、山本大さんは意外な即興演奏で勝負をかけてきた。

「津軽三味線は元々青森県の津軽地方で、目の見えない人達だけが弾いた芸能。譜面が無く即興で演奏されていました」と、大さんは話す。 音楽事務所、「アミューズ」から今年独立。その記念ライブが、2019年6月16日、文京区千駄木の狸坂文福亭で開かれ、小さい会場は大さんの独立を応援する人でいっぱいになった。

トークを挟みながら演奏がすすめられた。

「三味線は太棹と中棹と細棹があり、細い棹などは猫皮が張られ、太棹は犬の皮が張ってあります。津軽地方では太棹がそのまま使われました。生き物の犠牲に敬意をはらい感謝の念を持って、とても大切に使われてきました」

「津軽三味線は弦を押さえず、開放弦の間に指で押したりはじいたりします。ギターのようなフレットがなく勘所を押さえて音階を作るので、微妙な音が出せます。左指は人差し指と薬指だけを使い、爪に溝を付けて弦を押さえます」

(山本大さん提供)

[じょんがら節;旧節]に始まり、[津軽よされ節][十三の砂山]と続く。「津軽半島の厳しい冬景色を描いて弾きますので、会場を真っ暗闇にしていただき……」。観客は目を瞑って聴き入った。美空ひばりの[りんご追分]、アートブレーキ-のジャズ[モーニン]、そして、ベンチャーズの[パイプライン]。あのさびの部分も、津軽三味線での演奏に何の違和感もないどころか、むしろぴったり。客席が湧く。ラストは創作も入れながら、[津軽三味線の曲弾き]を演奏。アンコール曲として、[ねぶた囃子]、参加者全員の「らっせーら」のかけ声で盛り上がる。

(山本大さん提供)

津軽三味線は、津軽地方の盲目の男性だけが弾く芸能だったそうだ。明治40年頃誕生し、その頃は立って弾くので、棹の上部のみ押さえて演奏していたとのこと。大正末期から昭和にかけて、目の見えない人たちと、津軽民謡の歌い手たちとで旅回りの一座ができ、ニシン景気で沸く北海道へ巡業するようになったという。

(山本大さん提供)

「その中に、白川軍八郎さんという天才的な三味線弾きの方がいて、技術、テクニックを編み出しました。一座の中の、ある子ども芸人が、その天才に憧れ、昭和20年代に上京して歌手になり国民的スターになりました。それが、三橋美智也さんです」

大さんは10代の時にはパンクバンドをやっていたそうだ。「髪の毛モヒカンにしてですね、あれは音楽じゃないです」と大さんは笑う。「わーって叫んでて。でもパンクに対して真面目に取り組んでいくとパンクじゃなくなる」

それから「自分探し」が始まる。「アジアを旅する友達がいましたが、私の場合は津軽、東北に魅せられて。津軽三味線の攻撃的というか、激しい音楽に心を揺さぶられた」という。

「言葉は悪いですけど、彼らは視覚障害者であり、貧しくて、その貧しさの中から生まれた『ブルース』だと思いました。ジプシーと蔑まれてきた人たちにも重なりました」

津軽三味線は人のまねをしちゃいけないという芸哲学にも魅せられた。「全国大会も出ましたが、ありきたりな三味線とか弾いても、会場や審査委員には全く相手にされない。自分独自のオリジナルを入れていかなきゃいけない。思い返せばパンクも人のまねをしちゃいけない世界でしたので、同じだと思いました」

今の子どもたちや若者に伝えたいことはあるだろうか。

「津軽三味線は、ハンディキャップと貧しさに立ち向かう音楽で、人まねをせず、オリジナルを生み出す気高い自尊心から生まれた。子どもたちには、これからの人生、様々な困難を乗り越えながら、世界中の文化に触れ、素敵なものを探し出して楽しみ、そこから新しい何かを作り出してほしい」という。「海外のハードロックと同じ音階を使う津軽三味線なのですが、ハードロックより先に、津軽で生まれていたのですよ」

(山本大さん提供)

これまで第三世界と言われる国々、アフリカ、中央アジア、ウイグル族やクルド人、チベットなどの方とセッションを続けてきた。国境も国籍や人種も関係なく、だれでもが楽しめる音楽をと考え、即興で何か生まれるということを目指して、十数回やってきたが、これからも続けていきたいという。「思いと願いを形にしていきたい。CDの制作もしたい。変わったアルバムを作ってみたいです」

津軽三味線の歴史研究家が現在は誰もいなくなり、伝承も口伝が大半のため、研究もまだまだ未発達だそうだ。「手元にはレコードや書籍がけっこう集まっているので、演奏家として研究したい。ライブにレコードと蓄音機を持っていき、歴史を解説する予定もあります」と語った。

暑い一日に熱い演奏とトークに圧倒されながら、涼やかな風を感じるひとときだった。(稲葉洋子、提供写真以外の写真は藤木由美子さん撮影)


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