「お母さん、本屋さんやめないで。本屋さんはたくさんあった方がいいよ」。6歳の息子のひとことで、伊藤みずほさんは移転を機に閉めようかと思っていた中古絵本の店「OSAGARI絵本」の継続を決意した。旧店舗は江戸川橋駅近くのビル2階にあったが、2020年8月に茗荷谷駅徒歩8分ほどの大塚3丁目に引っ越し、同10月からリニューアルオープンした。
OSAGARI絵本は、ネット古本買取・販売の「本棚お助け隊」からスピンアウトした中古絵本店で、伊藤さんが店主を務める。伊藤さんはおもちゃコンサルタントでもあり、単に絵本を売るだけの店ではなく、ワークショップや地域活動にも力を入れている。「自分たちが大切に読んできた本を、新たなるおさがりとして、どこかの誰かの手へと橋渡ししたい」と伊藤さん。
新店舗は元製本屋さんの倉庫だった場所で、前の場所より狭くなったため、本棚お助け隊の物も多く、半分は倉庫状態。夏に天井を塗り、床を塗り、11月にやっとドアがつき、12月には知り合いの建築家に作ってもらった家具を入れ……ちょっとずつ手を入れながらお店をととのえてきた。誰かが愛読してきた絵本たちはきれいにクリーニングされて本棚に並び、なんだかあったかい雰囲気が漂う。段ボールが積み上げられ、雑然とした倉庫の雰囲気もありながら、腰掛けると妙に落ち着く空間だ。
OSAGARI絵本は2014年に始めた。同年に生まれた息子は保育園に入れず待機児童となり、当初は子連れ出勤しながらの運営だった。息子はOSAGARI絵本と共に育ってきて、本が大好きだ。江戸川橋から移転することになってあちこち物件を探す中、コロナ禍に見舞われ先行きも不透明なことから、伊藤さんはOSAGARI絵本をやめることも考えた。近所には絵本専門店もある。そうしたら息子が「お母さんの本屋さんにも人は来るよ。本屋さんは1つじゃ足りないよ」と言ったそうだ。その言葉に背中を押され、続けることにしたという。
開店してみると、以前は乳幼児連れのママが多かったが、意外にパパ層の来店が増え、小学生の来店も増えた。「ゾロリシリーズなどは入るとすぐ出ていきます」。大塚小学校が近いので、小学生がランドセルを背負ったまま、ぞろぞろと入ってくることも。集団になるとはめをはずす姿もあるため、時には「あなたのうちじゃないんだから」と叱りつつ、放課後の子どもの居場所になっている側面もあるようだ。
手に取って立ち読みできる本屋さんは減っている。本屋さんに行っても、売れ筋の本が平積みになっていて、どこに行っても同じラインナップという状況だ。その中で、「懐かしい本がある」「子どもと一緒に気兼ねなく選べる」といった声を聞くと、ニーズがあることを実感する。外はクリーニングしていないアウトレット本を並べた「軒下アウトレット店」。通りがかりの人も立ち寄るという。
緊急事態宣言下で、イベントの企画もしにくいが、外の小さなスペースでの読み聞かせ会や紙芝居などもやっていきたいという。営業は火~土11-16時で、原則1組ずつ(お友達同士の場合は2組)計6名まで、滞在は30分といった制限を設けている。詳細はFacebookページで。(敬)