子どもたちの暮らしが壊れている。暮らしを取り戻すには、ご飯を炊くだけでもいい――。学校に居場所がない子どもたちを支援するNPO法人フリースペースたまりば理事長の西野博之さんはそう考えている。子どもたちの居場所づくりを始めて24年。毎日みんなで昼食メニューを考え、買い物をし、調理し、食べる。「人間、食べているときは笑顔になれるでしょう。おいしい、うれしい、楽しいでつながれる」と西野さんは言う。
(西野博之さん)
学校に通えないでいる子どもや若者ら約100人が登録している「フリースペースえん」は、西野さんが施設長を務める「川崎市子ども夢パーク」内にある。朝、「えん」に通う道すがら野菜の値段を確認し、旬の素材を提案する子もいれば、夢パーク内の畑で何が収穫期か教えてくれる子もいる。その日の昼食を何にするかをみんなで相談し、役割分担し、一緒につくる。そして、「つくってくれてありがとう」と感謝し、ちゃぶ台をつなげてみんなで食べる。
(ちゃぶ台をつなげて食べると、おいしい、うれしい、楽しい)
かつて出会ったある家庭では、母親の体調が悪く、炊飯器はなく、コンビニおにぎりを大量に買い込み、冷蔵庫に保管して、毎日食べていた。「壊れた暮らしを取り戻すには、ご飯を炊いて食べるだけでいい。おいしい、が実感できる」。そしてみんなで調理すれば、「一人じゃない」と思える。
(広い敷地内は遊びの天国。畑もある)
「えん」がある川崎市子ども夢パークには、自分の責任でやりたいことにチャレンジできるプレーパークがあり、火も使える。ピザ窯があるのでピザを屋外で焼けるし、みそも梅干しもみんなで手作り。ビーフジャーキーをつくるのが得意で、「帝王」と呼ばれた子もいた。「だめな子」とばかり言われていた子が、役割を担うことで自己肯定感を取り戻す姿をたくさん見てきた。「安心して失敗を繰り返せる環境づくりが、失敗を乗り越える力につながる」
生きている、ただそれだけで祝福される。そんな居場所づくりをめざしてきた。「プレーパークのような遊び場と、ご飯を食べられる環境があることが大事」と西野さん。太鼓やギターなどの楽器、何もしないでまったりと過ごす時間や空間も必要だ。「えん」にはそれらがそろっている。部屋は雑然としているが、隠れてマンガを読めるような「すきま」がある。昼食の輪に加われず、1人背を向けてカップラーメンをすする子だっている。「いい子」は演じなくていい。
どんな子も受け入れる。それが「えん」の方針だ。そのために登録制にしており、親子と面談したうえで来てもらっている。
(屋根付きのひろばも。壁の絵は子どもたちの作品)
活動を始めたころに比べ、貧困の広がりを実感している。会費だけでは成り立たない。川崎市から事業の委託を受けてようやく回っている。それでも、子どもたちを見守る西野さんのまなざしはあたたかい。「金もうけはできないけど、生きもうけしています」(敬)