「走らないの」ではなく「歩こうね」(否定しない)。「泣かないの」ではなく「悲しかったね」(共感)。命令しない、静かに待つ……そんなルールのもと、親子で「登園」し、同じ空間で遊び、学ぶ「おやこ保育園」が共感を呼んでいる。保育士の小笠原舞さんと小竹めぐみさんの合同会社「こどもみらい探究社」が昨年から始めた。園舎はなく、貸スペースなどに月1、2回「登園」。0~2歳の子どもと親9組ほどが数か月間通う全8回程度の「保育園」だ。11月から第5期が始まるが、すでに満席で、「待機」が出ているほどだ。
さわやかな秋晴れの日の朝10時。文京区との区界が目と鼻の先にある豊島区の貸スペースに、ベビーカーや抱っこで親子が続々とやってきた。最初に、その日の目標を発表しあう。「めいっぱい遊ぶ」「心穏やかに」「息子らしく、娘らしく、私らしくいたい」。ママべったりの子もいれば、走り出したまま止まらない子もいる。否定しない、命令しない、静かに待つ、気持ちに共感。4つのルールのもと、どんな子もありのままで過ごすことができる。
朝の会のあとは、子どもが主役の時間。親は、子どもが遊ぶ様子を静かに観察。表情や遊び方、興味や気持ちについて行動観察シートに記入する。そのあとは近くの公園へみんなでお散歩。道すがら、民家の軒先の植木に見入ったり、道端の草や石ころに小さな発見をしたりしながらゆっくり歩き、公園でも思い思いに遊んで過ごす。あっという間にお昼になり、昼食後は、大人が主役の時間。子どもたちを自由に遊ばせながら、この日はしかり方をテーマに、それぞれがどうしているか、どうしたらいいのかを話し合った。
小笠原さんは、「遊びを探求することで子どもにも気づきがあるし、自分自身にも気づきがある。帰りの会では、子どもへのありがとうと、がんばった自分にもひと言、書いてみる」と話す。小竹さんは「子どもがどんな風に遊び、どんな気づきがあるのか。保育園では保育士はつぶさに見て知っているが、家庭では親はゆとりがなくて見えていないことが多い。親子で過ごして気づいて、暮らしそのものを楽しくしてほしい」と言う。
評判は口コミで広がり、募集するとすぐ定員に達してしまう人気ぶり。文京区からの参加者は「児童館などのプログラムは子ども向けで、親は付き添い。親向けのプログラムは親が楽しむだけになりがち。その点、ここは親子一緒に楽しめて、自分に目を向ける時間もとれるから、子どもへの接し方が変わってきた」と話す。別の参加者は「子どもの月齢が同じという程度で知り合ったママとは、当たり障りのない話か、子どもの話しかできないけれど、ここでは自分のことを話せて、共感も得られる。同志というかんじ」。保育園は13時に終わるが、「放課後」を楽しむ会もあるそうだ。
「ごきげんでいてくれてありがとう」「ママと離れて遊べるようになってありがとう」「この間1歳になったけど、この1年の成長と同じぐらい、私も成長をもらった」「がんばったというより、サイコー!」……子どもへの感謝や自分への一言を口にし、参加者は晴れ晴れとした表情で帰って行った。