〈ささえる みまもる〉「ご近所のおばちゃん」が寄り添う/横浜のNPO法人さくらんぼ

横浜市瀬谷区は、市の西端にある「郊外」のまち。合計特殊出生率は市内でも高い方だそうだ。ここで親子のつどいのひろばや保育園などの子育て支援拠点を複数展開しているのが、NPO法人さくらんぼ。ここの理事長が「やり手」だと聞きつけて、訪ねてみた。
相鉄線三ツ境駅に降りたつと、東京都心から来た身には空が広く感じられる。駅からすぐ、高架橋でつながっているビルの2階に、「保育室ネスト」はあった。駅前だが、目の前には広い公園がある。0~2歳児を預かっており、横浜市から補助金を得て運営している「横浜保育室」だ。3歳以上児も預かっているが、こちらは補助金を得ない運営だ。「保育室の子どもが3歳になったとき、引き続き預かってほしいという声があり、それにこたえる形で3歳以上児も預かるようになった」と、理事長の伊藤保子さんは言う。
もともと伊藤さんは働く人自身が出資して運営にかかわるワーカーズコレクティブで仕出し弁当の仕事をしていた。その仲間8人の出資と借金で1997年、0~2歳児20人を預かる保育室ネストを始めた。「使い勝手のよい、みんなが使える保育園」をめざしたという。2002年、元ゲームセンターだった現在地に移転した。「駅に近くて目の前が公園。『あそこは絶対保育園にするべきよね』と仲間と念じていたら、空いたのよ」と伊藤さんは笑う。
「素人感覚」でおかしいと思うことを工夫していった。たとえば、開園当初は市の他の園にならい、一律6万円近かった保育料について、「これではパートの人は利用できない」と、独自に最低2万円からの9段階の料金表をつくり、パートの人も使いやすくした。当時保育園に通う親は園で使う布団を持ち帰っていたが、「なんで忙しい親がこんな大荷物なの?」と、持ち帰りをなくし、「なんで保育園児は幼稚園に通えないの?」と、保育園から幼稚園への送迎を始めるなど、地域のニーズをきめ細かくすくいあげて活動してきた。
「なぜ2歳までしか通えないの?」「小学校にあがっても通えないの?」といった要望にこたえていくうちに、現在のように幅広い事業を手掛けるようになったそうだ。いま、小規模保育園など6園、地域子育て支援拠点、親と子のつどいのひろばや学童保育など5カ所の施設の運営を手がけている。
保育室ネストは、「本当のニーズ」をすくってきた。たとえば、1月の出産など、時期的に認可保育園に入れないなどで困っている人を受け入れる。母親が育てられない赤ちゃんを、生後14日で受け入れたこともあるそうだ。胃ろうで痰の吸引が必要な重度身体障害児を受け入れたこともある。「そういう経験を通して、保育士が育つ。人の生死にかかわる仕事であること、保育は社会で必要な事業だということを学び、それが自信につながっていく」
園には、「ただ座っているだけ」の80代のおばあちゃんもボランティアで来ているし、調理や清掃などで知的障害のある方も働いている。まさに地域ぐるみの子育てを実践しているといえる。
1人1人に向かい合う保育をしようと、ネストのわきのマンションの隣り合った2室を借りて、定員12人の小規模保育園を開設。家庭的な雰囲気で、子どもたちは大家族の一員のような感じで過ごしていた。
学童保育室はそこから離れた場所にあるが、180㎡の広さに50人の子どもを預かっている。20時まで開いており、必要な子には夕食も出す。近所には住宅の間に法人で借りている「泥んこ広場」もあって、保育園や学童の子どもたちが、泥んこ遊びをするそうだ。
法人事務所がある商店街の中には、つどいの広場がある。帰属感を醸成するために、会員制にし、困ったら「助けて」「おいでよ」と言えるような「疑似コミュニティー」をつくっているという。預け合いもでき、「昔あった、ちょっと近所の人に預けて買い物に行く、という感覚」だそうだ。今年度からは、ひろばのご近所に横浜市の委託を受けて児童家庭支援センターも始めた。
「子育てはバラ色ではなく、真っ黒になることだってある。楽しいことだけじゃない。そういうとき、あの一言で頑張れた、あそこが岐路だった、という経験をたいていの親が持っている。なんとか、そういう時期にある親子の心に響かせたい」と伊藤さん。「子どもはきっちり養育したら、生きていく力を持っている。そこを守ってあげないと」
地域子育て支援拠点「にこてらす」は、瀬谷区の委託で運営している子育てひろば。小さな庭もある。発達障害や知的障害の子、外国人の親子も来る。しかし、スタッフと利用者は教える、教えられる、といった関係性ではない。「私たちは環境だけをととのえ、利用者からヒントをもらってつくっている」。ベトナム人同士、中国人同士など、自主グループもできた。食材の寄付があったときの仕分けは、若年出産したママが率先してやっている。「平場の関係から次へと発展していく。地域性と当事者性を壊さない。そうでないと、『場』でなくなる。それは行政にはできないことで、民間だからこそできる。専門性は持っているが、普段は普通のおばちゃんでいい」と伊藤さんは話していた。(敬)