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本郷から次世代へ、和太鼓の響きを伝えたい/太鼓奏者、関口範章さんに聞く

今から18年ほど前、上野公園の不忍池にある水上音楽堂で、「打究人(だくと)」という、若い太鼓奏者3人組の公演に取り組んだことがある。演奏スタイルや創作による曲目、ロックコンサートのような衣装など、和太鼓の公演として当時は画期的なもので、ロックというか和太鼓というか、観客がみな心を奪われていたのを記憶している。

15年以上たって、メンバーのひとり、バンドでチャングを担当していた関口範章さんが、本郷や小日向で、お1人で演奏しているところに再会した。「打究人」は10年以上前に引退し、現在はフリーの太鼓奏者として演奏活動やワークショップなどを、精力的に展開しているという。

生粋の「本郷人」

関口範章さんは生まれも育ちも本郷2丁目界隈。実家は大横丁通り商店街でパン屋さんを営んでいた。「小さい頃から、お祭りの時期になると招集がかかって太鼓をたたいていました」と関口さんは言う。本郷は和太鼓が盛んで、大人たちは太鼓をたたき、子どもたちも小さい頃から太鼓に触れていた。祭りともなると、町のあちこちから太鼓の音が響いていた。

町の目抜き通り、大横丁通り商店街は、三河稲荷と桜木神社の領域がぶつかるところで、神社はそれぞれ「祭り」を執り行ったので、通りの近くの住民にとって、「祭り」は年に2回あることになる。

小さい頃の関口さんは、太鼓にはあまり興味がなかったそうだ。「高校生のころ、太鼓芸能集団『鼓童』が佐渡で旗揚げして、創始者メンバーの1人が町内出身。町内こぞって応援していましたが、その時はまだ興味がわかず…」

「二刀流」になる

あるとき、サムルノリ(韓国の農楽グループの名前でその太鼓演奏方法もサムルノリという)を見る機会があり、「これは、やりたい!」と思ったという。しかし、教えてくれる人はいなかった。

その後、大学を中退した頃、町会長(当時)にすすめられて、佐渡の「鼓童」の合宿に参加した。その後東京のプロ和太鼓団体「大江戸助六太鼓」に入門してプロの太鼓奏者となる。舞台にも出るようになって給料も出る、太鼓が仕事になって、大江戸助六太鼓には7年間所属した。

所属2年目からは、水道橋の韓国YMCAでチャングを習い始める。大江戸助六太鼓の傍ら、チャングを7年間勉強し、舞台に立てるようになった。そして、チャングと和太鼓の二刀流の奏者として、1999年、大江戸助六太鼓の先輩でもあった、茂戸藤浩司、その弟Ajoの3人で、「プロフェッショナル太鼓術  打究人」を立ち上げてメンバーとして7年間活躍した。その後フリーとなる。

「君の太鼓では、踊れない」

興味がなかったという和太鼓はどのように「好き」に変わったのだろうか。「学びながら和太鼓のフレーズの楽しい部分とか、好きな部分を、自分なりに見つけて好きになっていった」と関口さんはいう。

「活動する中で、ある転機がありました」。まだ大江戸助六太鼓にいた頃だ。築地本願寺の盆踊りで演奏していたとき、大家らしい踊りの師匠に会場の隅に連れていかれた。そして言われる。「君はなんでそういう太鼓をたたくのか」。その頃はパフォーマンスにこだわって太鼓を叩いていた。「君の太鼓では、踊れないよ」と師匠は続けた。「唄はCDカセットだとしても、ただ叩くだけじゃなくて、踊り手が踊りたくなるような太鼓を、なぜ君は叩かないのか」。そして「君ならできるはず」と、本番前に1人で練習していた関口さんを見ていたらしい師匠は言った。

「音をきれいに、フレーズに抑揚をつけて、踊りたくなるような太鼓」を1年間追求、翌年の盆踊りではその師匠から褒められた。太鼓は伴奏なのか、パフォーマンスなのか、つきつめた結果、太鼓は伴奏だと気づいた。「パフォーマンスは結果としてついてくる」。ついてきたパフォーマンスは美しい。

本郷の地で太鼓を叩き続ける

昔から和太鼓が根付いている本郷という町には、生まれたときから和太鼓に慣れ親しみ、耳が肥えている年配者が多い。太鼓の音色を聞いただけで、音で判断して、他者と比較される。「まだ、何か足りない」「バランスがよくない」「力が抜けてない」などとアドバイスしてくれる。「実家の近所にいたおじさんは、普段太鼓を教えているわけではないんですけど、あれやこれやとアドバイスをたくさんくれて、それに沿ってひとつずつほどきながら音を作っていったら、韓国の太鼓で教わったことに通じていて。結局、型は違えど核の部分は一緒なんだと思った」という。「さらに、築地で叱ってくれた踊りの師匠の話にも繋がった」そうだ。

太鼓奏者として太鼓を通して描く未来への思いを聞いた。

「地域のおじちゃん、おばちゃんのアドバイスは、本郷の太鼓という文化が継承される長い歴史の中で培われてきたもの。次世代の子どもたちには、せっかく本郷で育っていくのなら、この地の歴史や文化を感じて引き継いでいってほしい」。それには、まずは子どもたちに和太鼓を楽しんでもらいたいという。「先人たちが生きている中で、営んできたものを引き継いで、その先人たちも、自分も、名は知られなくても、太鼓の文化が子どもたちの記憶に残ればいいと思っています」と関口さんは語った。(稲葉洋子)

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