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ワンストップで切れ目なくすべての子育てを応援!/二本松市のまゆみ学園

家庭で保育している子も、園児も、障害児も、職員の子どもも、病児も。地域の子どもを包括的に育てる場として、さまざまな機能を持たせている施設が、福島県二本松市にある。運営するのは学校法人まゆみ学園。文京区から遠く北に240キロも離れているが、このほど視察の機会があったので、リポートする。

一枚板のテーブルに、木の椅子。リラックスできそうなハンギングチェア。ぬくもりを感じられる空間には本棚があり、新聞が置いてあり、セルフで100円のドリンクバーも。それは認定こども園「まゆみぷらす」に併設された地域・子育て支援センター「ぷらす」入り口のカフェだ。親子連れはもちろん、地域の人や、こども園に送迎の保護者も使える。「Wi-Fiも使えるので、ここで仕事をしていく保護者もいますよ」と、理事長の古渡一秀さんは言う。

なだらかな優しい山容の安達太良山(あだたらやま)のふもと、阿武隈川(あぶくまがわ)が流れる福島県二本松市は、彫刻家・作家の高村光太郎の妻智恵子の生家があり、智恵子抄にも歌われたまち。古い歴史を持つ岳温泉があり、酒蔵があり、二本松城がある。県都福島市と、商工業都市郡山市の間に位置し、通勤圏内でもある。

開園した2018年は田んぼや空き地が多かったが、今では震災復興住宅や、戸建て住宅が立ち並び、人口が増えているそうだ。古渡さんは「園ができると家が建つのですよ。でも定員いっぱいになってしまって、待機する人が出ている」と言う。

認定こども園まゆみぷらすは、幼稚園と保育園を一体化した施設。子育て支援センター「ぷらす」は乳幼児を育てる家庭向けの子育てひろばだ。親子で訪れて遊んだり、子育て相談したり、一時預かりも受けているので、子どもを預けることもできる。「ぷらす」は「まゆみぷらす」のホールとつながっている。扉を閉めれば独立した2つの施設だが、扉はたいてい開け放たれていて、行き来できる。「乳児も幼児も交差できるように設計を考えた。仕切りはなるべくはずす方向」という。

こども園の女の子がやってきて話しかけてきた。ホールにある大きな「木」に案内してくれる。中が空洞になっている本物の木の根元部分だ。「ここ、入れるんだよ。入ってみる?」。ホールからはウッドデッキに出られ、広い園庭に出られる。園庭には築山があり、その先には白い雪が少し残る安達太良山が望めた。築山の下は貯水槽になっていて、1.5トンの飲料水を貯めているそうだ。

「第2の園庭」と古渡さんが呼ぶ空き地を挟んで、「チャイルドケアハウス こどもの家」がある。1階は病後児保育室、2階は企業主導型保育園で、地域の子どものほか、周辺の企業や園職員の子どもを預かる。「職員のため、企業のため、地域のため」と古渡さん。

古渡さんは市内にある正慶寺の住職でもある。もともとは古渡さんの両親が1958(昭和33)年、寺の本堂で「まゆみ幼児園(のちに幼稚園)」を開園したのが始まりだ。1980年に学校法人まゆみ学園を設立、現在では4つの拠点で、認定こども園、地域子育て支援拠点事業、病後児保育事業、企業主導型保育事業、児童発達支援事業を組み合わせて展開している。古渡さんは、「一つのこども園で何ができるか。いろんな機能を入れ込んでみた」と言う。園舎の広い屋上に案内してくれたときは、「ここをビール園にしたいんだよね」とにやり。「点を線でつなぎ、いかに面にしていくか」

原点となったまゆみ幼稚園はその後認定こども園となり、2022年4月に新築移転したばかりだ。約6800平方メートルの敷地に、ほぼ平屋の延べ床面積約1590平方メートルの建物。サッカーコート1面の敷地に、テニスコート6面分の建物が建っている、と考えるとイメージしやすい。(ちなみに、まゆみぷらすはもっと広い。)ここにはやはりカフェスペースと子育てひろばが併設され、障害児の通所施設、児童発達支援事業所も併設されている。助産師会と連携し、産前産後ケア施設も併設予定だったが、人手が確保できず延期となったそうだ。

調理室がガラス越しに見え、子どもたちが自分で取れるような台がある。まゆみぷらすではクッキング保育室があった。食育にも力を入れている。

真ん中にはさんさんと日が差す中庭がある。そこでは、子育てひろばに遊びに来た親子がプール遊びをしていた。園児ものぞきに行っていた。

コロナで休止しているものの、「すくすくこどもまつり」というのをやって、地域との交流を図ってきた。近所の畑を借りているといい、今後もいろんな展開を考えている。「理事長が思いついたアイデアをばーっと言うと、周りの職員の頭の中はハテナマークでいっぱいになるんです」と笑うのは、認定こども園2園に併設された2つの地域・子育て支援センターの統括センター長を務める本田智子さんだ。

センターでも「支援センターまつり」や「パパたちのセンター開放Day」といった地域交流事業をやっており、カフェスペースを活用して離乳食講座や料理教室を開くほか、こども食堂やみんなの給食会、という日も設けている。

本田さんは、園の元保護者だ。上の子2人はまゆみ幼稚園に、下の子は古渡さんが当時運営していた認可外保育園に入れた。「転居してきて下の子の保育園を探したが認可園に入れず、わらをもすがる思いで当時認可外だった保育園に電話したら、理事長が出て、見学においでと。その日のことは今もありありと目に浮かびます」。それから保護者として通っていたが、卒園する際、古渡さんから「うちで働かないか」とスカウトされた。以来、古渡さんの右腕として、古渡さんの頭の中のアイデアを具体化する作業に携わってきた。「人柄もわかっているし、適任だと思って」と古渡さん。保護者や利用者には専門的な知識やスキルを持つ人もおり、人材発掘できるのも、地域に密着した法人ならではだ。

始まりの地である正慶寺境内にある園舎は、まゆみ幼稚園から増改築を重ねて認定こども園となり、2021年度まで使われていた。壁面の絵は、美術大学生が描いたものだ。東日本大震災のとき、二本松市に避難している家族も多く、子どもたちが外遊びできない時期は、2歳児室を室内砂場に改造し、地域に開放した。さまざまな思い出が詰まっている。

「ここでは学童保育をやる予定。フリースクールもいいかなと。最近、学校に行けない子も多いと聞くので。せっかく給食室があるから、食事も提供できるし、食の宅配なんかもやってみたい」。古渡さんのアイデアは膨らみ、広がる。本田さんら職員の奔走も当分続きそうだ。(敬)


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