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「暮らす」とは、壊して、作って、保持すること。赤ちゃんを中心に暮らしていけば、世界平和につながる!?/あきるの市の認証保育所「ウッディキッズ」で保育と暮らしと世界平和を考えた

JR秋川駅から徒歩10分ほど。「ウッディキッズ」と書かれた「バス停」がなければ通り過ぎていただろう。多摩西部、あきるの市にある認証保育所「ウッディキッズ」は普通の民家のたたずまい。

門の近くにはウコッケイの小屋がある。「これは園舎ではない。赤ちゃんが育つ住居、です」と、園長の溝口義朗さんは言う。

玄関を入ると、本当に普通のお宅、という雰囲気。ペルシャじゅうたんが敷かれ、正面には天井まで届く本棚に、本やら地球儀やらがぎっしり。絵も飾られている。

「玄関は毎日絶対通るところ。本とか絵とか、文化的な資本といいますか、そういったものに毎日接することが大事かと。私は子どもたちの前で毎日、新聞を読んでいます」

中は田の字型に仕切られ、中央に薪ストーブがある。

ままごとコーナーや読書コーナー、キッチン、食堂、奥には畳の座敷。リビング的な場所に座っていれば、全員がどこで何をしているか、見えたり感じられたりできる空間だ。

溝口さんは、まだ男性保育士がほぼいなかった時代に社会福祉法人の認可園に勤め、保育の世界に入った。知人の園長の依頼で2001年に秋川に認可外の保育園を設立、ちょうど東京都が認証保育所制度を始めるタイミングだったので、認証保育所にした。そこを別の園長が引き継いだあと、2009年にウッディキッズを開いた。保育一筋の人だ。現在、保育事業者らが加入する日本こども育成協議会の会長でもある。

ソファもあれば、ちゃぶ台もある

「教えるのは嫌いだが学ぶのは好き」と言う通り、保育の環境の固定概念を取り払い、「教室」でないものをと、歴史に学び、海外に学び、博物館に足を運んで、建物は設計にこだわった。「日本の単位に間尺というのがあるでしょう。半間は手のふれあう幅でつくってある。バリアフリーの規定幅が、間尺に合わないんですよ」。話し始めると止まらない。

こだわっているのは、「保育」ではなく「暮らし」だ。スウェーデンから学んだところが大きいという。「ゴシック建築を数百年かけて建設したのは『使う人がいるから』と言ったイギリスのジョン・ラスキン、労働する人が豊かにならないと社会はよくならないと説いたウィリアム・モリス、その流れはスウェーデンにも伝播したと思う。いいデザインでいい心が生まれる。住まうことで育つ、という思想」。間取りもデザインされ、美しいカーテンに家具、食器。北欧デザインは暮らしを豊かにするもの。何度も視察に行き、保育が生活環境に根差していることを実感した。

赤ちゃんを中心に生活をつくればよい。それは保育ではなく、暮らしそのもの。そういう考え方に基づき、園舎ではなく、「住居」をつくった。

座敷で午睡

午睡する座敷の天井は低く、遊んだり集ったりするスペースは吹き抜けで梁が見える。異年齢保育で、3人の0歳児から5人の5歳児まで、34人がごちゃまぜで過ごす。

保育理念は?との質問に「『世界平和』と『女性の社会への解放』です」という答えが返ってきた。「なんのこっちゃと思われるから、聞かれなければ言わないんですが」と溝口さん。床を這い、なんでもなめる赤ちゃんを中心に、どういう動きをすればよいか、みんなで考えて動けば、調和していける。

普通の台所とキッチン、段差を上がってちゃぶ台が

人生の始期、1歳半ごろまでの子どもは、「私」と「あなた」の区別がはっきりせず、身体感覚も五感も未分化の状態にある。台所から漂ってくるおいしそうな料理のにおい、静かにしか閉めることができない日本家屋の障子、母以外の他者に抱かれる、そうした物的人的環境からの刺激で、子どもは自分と他者の区別や、感覚や言葉の獲得をしていく。

食堂の奥は座卓のある座敷

「環境構成は『しつらう』ことではないか。壊して作って保持する。それはすなわち、『暮らす』こと」
人の細胞は毎日壊れて、作られて、生命が維持されている。食物は放っておけば腐る(壊れる)が、加工する(作る)ことで保持することができる。

玄関わきの小さな庭でご飯を炊く。「同じ釜の飯」をみんなで食べる

ウッディキッズでは2月4日の立春から始まる季節の節目や行事を大事にして暮らしている。近くに山も川もあり、地域の人の畑もあり、毎日のように出かける。小さな庭には釜があり、火を起こして釜でご飯を炊いて昼食にいただく。園児の親族や近所の人から「たくさんとれたから」と果物や野菜の差し入れがある。

玄関わきのウコッケイの小屋

夏は流しそうめん。竹を切り出し、加工して組み立て、そうめんを流して食べる。「そうめんを食べる、という目的に向かって、それぞれ、自分ができることをこなす。個として存在しつつ、同じイメージを共有する。個体を超えて共有するものがあれば、それは世界平和につながるでしょう」
完全に理解はできないが、感覚的にはわかる気がする。

隣には、2階建ての家がある。2022年に建てられた。1階ではたいてい「ウッディカフェよっちゃんち」をやっていて、子ども食堂も開催。カフェスペースもある。

なぜかランドリーマシンが複数並ぶ。「ランドリーがあるといいよねという声があって」と溝口さん。パン屋をやりたいけど場所がないというママは、パンを焼いて販売。

2階は絵やテレビモニターがあるサロンスペースや、おもちゃが並ぶサロンスペース、勉強もできそうな小部屋がある。ここではネイルサロンやベビーマッサージ、手作り品のワークショップなどが開かれる。

近所の人がお茶しにくることもあるといい、多世代交流の場にもなっている。「お母さんたちがいろんなアイデアを出してくれる」という。

昼食は、庭のウコッケイの卵を使った天津丼だった。園児の祖父が差し入れたというスイカ付き。食堂に続く座敷で食べていると、3歳4歳の子どもたちが食堂の片付けやテーブル拭きをしながら興味津々の顔でのぞいてくる。溝口さんの言う「暮らし」の一端に触れた気がした。(敬)


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