書店がどんどんクローズしているいまどき、珍しく千石に書店ができたと聞いて、行ってみた。旅と暮らしの本屋「アンダンテ」。千石駅徒歩2分、不忍通り沿いで、白山通りとの交差点のすぐ近くだ。ガラス張りなのですぐわかる。2024年11月15日にオープンした。
入るとすぐ、「文京区ゆかりの本」コーナーがあった。どれどれ、「谷根千ミステリ散歩」に「樋口一葉赤貧日記」「牧野富太郎」、小石川の印刷工場が舞台の「太陽のない街」。江戸川乱歩の「Ⅾ坂の殺人事件」か。Ⅾ坂が団子坂のことだと知ったのは割と最近のことだったな。。。「発掘写真で訪ねる 文京区・豊島区古地図散歩」が気になったがやや高めなので、次にしよう。青木玉著「小石川の家」。小石川の善光寺坂の途中にあるムクの木、その前にあったという幸田露伴の家の話だ、と思うと、思わず手が伸びた。
「この本、結構売れているんですよ」と店長の前田康匡さんが言う。コーナー全体も好評らしい。確かに、文京区ゆかりの本と言われたら、区民は手に取らざるを得ないかも。ガイド本を置いているわけではないところがまたよい。
ここは、出版業を営む「産業編集センター」のビルの1階だ。書店を開いたきっかけは、出版部内での何気ない会話。書店が減っていく状況では、自分たちが編集して出版した本を売る場も減っていく。この先どうしたらいいか、と話す中で、オフィスとして使っていた1階部分が立地もよいし書店にしたら面白いのでは、というアイデアが浮かんだのだという。それが1年ほど前、2024年1月のことだった。決まればスピーディーに動く体質の会社だといい、オフィスは上階に移動し、改装をして11月に開店となった。
産業編集センターが主に出版しているのが旅と暮らしの本なので、旅と、衣食住といった暮らしの本をメーンに置いている。といっても、約1万冊並ぶ本のうち、自社で作った本は1割に満たないらしい。
店のスタッフはアルバイトと、出版部員4人が兼務する。前田さんも出版部員をしながらの店長業務だ。普段の本づくりでもマーケティングはしているが、リアルな書店を持ったことで、「自分たちが作った本の感想を直接聞けるし、ニーズもわかるので、本づくりの企画に活かせそう」という。店長業務の合間に時間をもらい、上階に上がって編集業務もこなすという。
店名の「アンダンテ」は、音楽用語で「歩くような速さで」という意味。ロゴも「an、dan、te。」と「、」や「。」が付いている。「立ち止まる」といったニュアンスを表現したという。「本はスローなメディア。店内をゆっくりみてお気に入りを探してもらいたい。そして家では本とゆっくり過ごしていただければと思います」と前田さん。
棚づくりは、出版部員それぞれの得意分野をいかして本を並べている。緑のジャンルサインが「旅」、オレンジが「暮らし」で、「衣」「食」「住」、それにはまらないものは「遊」でくくっている。「インド,インド,インド!」とインドにまつわる本だけ並べたコーナーがあったり、「お酒の本」というコーナーがあったり。旅といってもガイド本だけが並んでいるわけではない。「ゲゲゲの鬼太郎」「紅と白 高杉晋作伝」「しろがねの葉」が並んでいて、あれ?と思ったら、鳥取、島根、山口にまつわるコーナーだった。
「住」や「食」のコーナーには、レシピ本や片付け術などのノウハウ本もあるのだけれど、子育ての本もあるし、「50代からの『幸せ』設計図」「60代からの見た目の壁」「人生は70代で決まる」「86歳の健康暮らし」など、自分や親に買っていこうか、と思ってしまうような本もある。
「遊」に絵本コーナーもあり、好評だという。確かに、ベビーカーでやってきた親子がしばらく絵本を手にとって読んでいて、気に入った絵本を購入して満足げに帰って行った。
前田さんは「思っていたより、本を買う人が多いと思った」という。1人で何冊も買う人がいる。「待ってました」「近所に本屋がないのでうれしい」という声もたくさん聞いた。「毎日あたたかい声をかけていただき、よかったなと思います」。料理本で客からの要望を受けて置いた本もある。前田さんは「お客さんのニーズをくみ取れる『まちの本屋さん』でありながら、あそこに行けば面白い本があると、わざわざ来てもらえるような本屋さんになれたら」と話していた。
旅と暮らしの本屋「アンダンテ」 文京区千石4-39-17
営業時間:11:00~20:00(土日祝は~19:00) 定休日:水曜