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ワハハ本舗の佐藤さん、日常と非日常交わる「夕やけだんだん」で紙芝居/被災地の思い胸に上演

上がりそうだった雨がまたぽつりぽつり降り始めた。「ワハハ本舗の佐藤正宏さんが紙芝居を『夕やけだんだん』の上で上演する」と聞いてやってきた。佐藤さんといえば1984年に柴田理恵さん、久本雅美さんたちと劇団WAHAHA本舗を結成、舞台、映画、テレビ、ラジオ、CMなどで活躍している有名人だ。

「夕やけだんだん」は谷中銀座から日暮里駅へと上がる石の階段。だんだんを上がった左側に昔ながらの酒屋さんがあり、入口のたたきには木箱に段ボールを敷いた椅子が並べられ、地元の方らしい男性が3~4人、犬を散歩中の女性、子連れの若いママとかがマスク姿でおしゃべりしている。

「今日って、紙芝居ありますか」と、聞いてみる。「ないんじゃないの、雨だし」。帰った方がいいよ、雨のときは来ないよ、紙芝居なんだからさ、と言われたが、酒屋さんの向かいの歩道、紙芝居が上演されるという場所(酒屋さんの土地らしい)で、とにかく開始予定時間まで待ってみることにする。

諦めて帰ろうとしたとき、路地から佐藤さんが自転車を引いてふっと姿を現した。「いやぁ、どなたか来てくださっているかも知れないので、来ました。」と佐藤さんは笑顔で言う。自転車には紙芝居の荷物がいっぱい。「来てよかった」「待っててよかった」。酒屋さんの軒先のおじさんたちも、「来ないって言っちゃって悪かったねぇ」と、なんだか嬉しそう。

その時、また少し強めの雨が。佐藤さんは「酒屋さんの車庫に自転車を雨宿りさせてもらって、雨が止むまで、僕がなんで紙芝居をはじめたかお話ししますよ」。本来、ワハハ本舗の佐藤正宏さんに私が取材を申し込むというのは敷居の高い話。紙芝居を見たくてやってきた私には「棚から牡丹餅」の取材のチャンス。雨のおかげだ。

――紙芝居を始めたきっかけは。

「生まれが山形県ということもあって、震災後、岩手県遠野市にあるボランティアセンターに行って、あちこちの被災地の後片付けを手伝い、大槌ではヘドロに浸かった写真をきれいにするボランティアをしていました。紙芝居は2013年から始めました。震災で亡くなった人たちが、喜んでくれるものはなんだろうと思った時、紙芝居をやろうと思ったのです」

――なぜ紙芝居なのですか。

「紙芝居は日本にしかないですよね。子どもの時、紙芝居が来て、紙芝居のおっちゃんたちはどっから来てどこに行くんだろう、と子ども心にすごく不思議でした。前の日、神社の境内にいたのが、次の日はいなくなっちゃって。そういうことがすごくおもしろいなと思っていました。内容は、昔話がいいなと。亡くなったお年寄りたちが、孫たちに聞かせたかったとか、亡くなった子どもたちももっと聞きたかったとか、自分が大きくなったら伝えたかったとか。伝わっていくものがあるじゃないですか」

――どこで始めたのですか

「『遠くへ行きたい』という番組があって、出演者が自分が行きたいところをリクエストできるんですよ。2013年に大船渡の町の鍛冶屋さんに、前に作ってもらった包丁を直してもらう、直してもらったお礼に大船渡の仮設商店街で紙芝居をやらしてもらうという旅をリクエストして、第1回目の紙芝居はそこでやったんです」

――その後も続けていらっしゃる

「一人でやれるのがいいし、自分で持ち運べばどこにでも行けるし、劇場とかなくてもできるじゃないですか。自分のやりたいときにやりたいことがやれるっていうのが気楽だし楽しいし、投げ銭というのも楽しい。その後、チラシを作って病院でやらしてもらったり、友達のつてで小学校でやらしてもらったり。2016年にヘブンアーティストのライセンスをもらって、公園でもやっていました。コロナ禍で去年3月の池袋の東京芸術劇場の舞台がなくなり、5月から7月のワハハの東京の舞台と地方公演がなくなって、8月は三越劇場の舞台もなくなって。ヘブンアーティストの方は去年の6月に再開と思ったら中止で」

――コロナが打撃でした

「ヘブンアーティストも、そうか、だめか、と思いながら、何もしないのもいやだと思いました。友だちの友だちで、自閉症をもっている青年がいて、絵がとっても好きなんです。その青年の絵が前からとっても好きで、そうだ、今なら時間があるから、シャツに絵を描いてもらおうと、GUで白いシャツを買って、布用の絵の具を画材屋さんで買って、兵庫県の西宮に住んでいる彼に送りました。できあがったのがこのシャツなんです。その出来があんまりよくて、ヘブンアーティストの活動も8月からできるっていうんで、ようし、このシャツを着て紙芝居やろうじゃないかって。そしたら前の日になって、東京都から、できませんて連絡がありました。ちょっと待ってください、と都庁までいったんですよ。覆らないとは思うんだけど、言われっぱなしっていうのも嫌ですから。覆りはしなかったですね」

――なぜ夕やけだんだんに

「前からここで紙芝居やりたかったんで、やっちゃえ、やっちゃえって。谷中銀座商店街の知り合いに、『あの階段の上でやりたいんだけどどうしたらいいですかね』と聞くと、『酒屋さんに言えばいい』というので聞いたら、『いいよ、いいよ、やりなさいよ』と。そこにいる人たちも『いいね、いいね、やろう、やろう』となって、昨年8月から紙芝居を始めました。自転車にも西宮の青年にペインティングしてもって、去年の12月20日にここでそのお披露目の会をしました。ここって日常じゃないですか。だからね、紙芝居で日常に非日常が交わる。縁側の感覚ですね。家じゃないけど表じゃない、外と家が交わるところが面白いんですよね」

「あ、空が明るくなってきたね」。佐藤さんは、自転車を取りに酒屋さんの車庫へ。夕やけだんだんの紙芝居は、これからも続けていくとのこと。土日の午後に、よく上演がある。佐藤さんのFacebookにスケジュールが出ているので、ぜひ、日常と非日常が交わる場所、佐藤正宏さんの紙芝居に出会いに、お出かけください。(稲葉洋子)


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