窓の外に山手線や京浜東北線が行き交うビルの2階。明るいスペースに3組の親子が集う。「もう立ちそうねえ」「そうですね。ここで寝返りもできるようになったし」。スタッフの声掛けに、0歳の子ども連れで来ていた母親が応じる。「ほかの大きいお子さんを見ていて、できるようになったことが多いかも」
西日暮里駅前にある子育て交流サロン「いくじ応援団ハウス」は、助産師たちが立ち上げた「いくじ応援団」が運営している。2021年4月にオープンした。現在は予約制だが、0~3歳の子どもと親や妊婦さんが気軽に遊びに来られる場だ。窓の外には西日暮里駅の高架のホームの端っこが見え、緑や青のラインが入った各駅停車のほか、時折新幹線が走るのも見える。
代表の鷹巣淳子さんは「妊娠中から産後まで、切れ目なくかかわることが大事。助産師だからできることがあるはず」と話す。鷹巣さんは荒川区で「たんぽぽ助産院」を営む開業助産師。産前産後の母親支援は、地域で助産師が活動できる得意分野だと考え、仲間の助産師や志を同じくする仲間と共に、妊婦や産後の方向けのヨガやリトミックのクラスを開き、相談にも応じるという活動を続けてきた。活動場所があるといいねという話になり、物件を探し、荒川区の事業の委託を受け子育て交流サロンを開くことになった。
午前中は、これまでやってきたようなヨガやバランスボール、リトミックやバレエストレッチ、親子ふれあいマッサージや絵本講座など有料の講座を開催。11:30~16:30は無料の子育て交流サロンとして運営している。しかし、現在コロナウイルスの影響で開設時間が通常と異なる。
「あまり食べないんです」「そんな時期もあるからいいんじゃない」。何気ない会話を通して、本人が悩みとして認識していないけれど、実は重く感じていることを軽くする、そんな活動をしてきた。「お母さんがリラックスして、楽しいと感じられることが大切。その中でどう赤ちゃんとつきあっていけばよいかを自然に伝えていけたら」と鷹巣さん。
悩みは、妊婦さんとなかなかつながれないこと。「妊婦さんが忙しすぎるのか。知って欲しい情報をどう伝えるかが課題」という。妊娠中から産後をイメージできると、出産後の育児もスムーズになるはず。でも、伝えたいことが伝わらない。もどかしい思いを抱えている。対面で、個別に、その人にあった情報をどう届けるか。
「妊娠した時から産後の育児まで伴走する『マイ助産師』が広げられるといいのですが」と鷹巣さん。かつて地域には「産婆さん」と呼ばれる助産師がいて、妊娠、出産、育児をサポートしていたものだが、いまやそのような助産師は「絶滅危惧種」。それでも鷹巣さんは、助産師が地域で持つ本来的な役割を生かしたいと考えている。
子育て交流サロンは区外の人も来られるが、週1日の一時預かりは荒川区民だけの利用となっている。詳細はサイトで。(敬)