夏といえばビール。そういえば、東京都内にはクラフトビールの小規模醸造所(マイクロブルワリー)が増え、併設のパブも増えているそうだ。クラフトビール飲み歩きをやろうと思いついたとき、かつて取材した文京区の「カンパイ!ブルーイング」とのコラボで「麻婆でカンパイ!」というイベントを、荒川区の「OKEI BREWERY(オケイブルワリー)NIPPORI」でやると知った。荒川区初の醸造所併設のパブ(ブリューパブ)だと荒川102の記事で読み、いざ出発。
日暮里駅の繊維街から日暮里南公園へ向かうと、公園の手前にパブが現れた。隣は醸造タンクが並ぶ醸造所。元自動車整備工場を改装したそうだ。
平日の夕方なのに、店内はそこそこ客がいる。「私は3時から飲んでますよ」と常連客がカウンターで立ち飲みしていた。
そのカウンターには、文京区初のクラフトビール醸造所として2019年4月に記事化した「カンパイ!ブルーイング」の荒井祥郎さんがいた。同年9月に併設のパブ「グランズ―」での飲み比べ記事も掲載。あれからもう3年がたつ。
しかしなぜ麻婆豆腐とビールなのだろう。「荒井さんが飲みに来たとき、酔っ払って盛り上がって、やろう!ってことになった。ノリと勢いで」と、OKEI BREWERYのクラフトビール醸造士で工場長の松山陽介さんが言う。
ともかく、麻婆豆腐を注文し、OKEI醸造のクラフトビール「ベルジャンホワイト」を頼んだ。この日はOKEIの3種類とカンパイ!の6種類が楽しめるという。「どんな思いで作ったんですか」と尋ねると「おいしくなれ、の思いで」と松山さん。ベルジャンホワイトは名前の通り、ベルギービールのような味だ。
次は「オケペ」。オリジナルのペールエールだ。「最初は無味無臭で味がしなかったのを、置いていたらじわじわおいしくなってきた」。華やかな香りがして、ほどよい苦み。これは好みのタイプだ。麻婆豆腐は激辛らしいので、味覚が鈍らないよう、食べるのは後回し。
③と書いてある「荒川Hazy アンダーザブリッジ」は一番最初に手掛けたビールだという。少し濁りのあるインディアンペールエール(IPA)。独特の香りがあってフルーティーだが、苦みもある。「一番最初のビールに込めた思いは」の問いに、松山さんは「シンプルに、おいしくなれ、と」。シンプルな答えだ。
松山さんは料理人。今も新橋に店舗がある。「最初は本当にビールができるのかなという不安があったが、やればやるほど面白くなってきた」と言う。「料理はその場ですぐできるが、ビールは発酵する時間がかかる。結果がすぐ出ない分、思いが強くなる」。仕込む前にどれだけ考えるかが勝負だ。設計図をしっかり書いて、ブレをなくしていく。料理の場合はブレたら足せばよい。だがビールは足すことができない。「料理と違う面白さを発見した」
OKEIのビールを3杯飲んだところで、いよいよ麻婆豆腐に挑む。羊肉を使い、パクチーが添えられている。しびれる辛さは花椒(ホアジャオ)か。確かに激辛だが、やみつきになる辛美味。軽めのビールの方がよいのだろうが、あえてカンパイ!の「みやぶる坂フルーツスムージーサワー」を頼んだ。「いま業界ではフルーツスムージーサワーが人気なんですよ」と荒井さんは言う。バナナとパイナップルとアプリコットのフルーツピューレが入っているのでトロトロと濃厚。苦みと酸味があるサワーエールがベースなので、酸っぱ甘いけどちゃんとビールの味がする。コクコクいけそうで、アブナイ系だ。辛うまの麻婆豆腐との組み合わせも悪くない。
舌がしびれることもなく、味覚は正常だったので、カンパイ!の「畝畦坂シルキースパークリングエール」で締め。いろんな複雑な香りがして、飲みやすくおいしい。いつの間にかカウンターの立ち飲み席には常連さんがずらり。一緒になって「団子坂インペリアルスタウト」も飲みたかったけれど、ホームの文京区でも飲めるからと思い直して席を立った。次はカンパイ!の下にあるグランズ―で飲もう。(敬)