タスキをかけたヒマラヤスギ、サクラ、イタヤカエデ。あそこにも、ここにも、「立候補者」が。。。折戸朗子「小石川植物祭選挙」の候補者だ。そんな楽しい仕掛けがあちこちにある小石川植物祭2023に行ってきた。
ところどころの木に栞がぶら下がって風に揺れている。「くるみの淡紫の幹 『団栗』寺田寅彦」とか、書名と、その本からの一文が記されている。
子どもたちが大勢で賑わっているブースがあった。小石川植本屋+Cotto「植物によむ物語」。
新井三枝子さんと矢彦沢恵一さんが文京区で運営しているまちライブラリー、小石川植本屋のワークショップだ。2人は本郷にあるシェア型書店BOOK BRIDGEの一棚オーナーでもある。小石川植物祭へは昨年に続いての出展。今年のテーマ「命名」にちなみ、小石川植物園に関係のある人物を中心に植物のことがよく分かるような本の展示と、植物園という大きなアトリエを舞台に子どもたちが作品を創作し、命名するワークショップを思いついたという。植物にぶら下がっていた栞も、小石川植本屋の企画だ。
大きく広げられた白いレジャーシートの上に、植物をモチーフとしたスタンプと、どんぐり、松ぼっくり、ヒマラヤスギの枝が置かれ、風が吹く度に上からひらひらとスズカケケノキの枯れ葉が舞い落ちてくる。その中で自分たちの創作に熱中する子どもたちの熱気に巻き込まれた。
スタンプは消しゴムはんこで、全部新井さんの手作り。300個以上あった。スタンプ台は水性のもの。「色が混ざるので、いろいろな色のスタンプを押すと微妙な色ができるのです」と新井さん。
8ページの小さな冊子に好きなスタンプを押していき、お気に入りの一冊に作り上げて、命名する。子どもたちはスタンプとスタンプ台とにらめっこ、考えに考えて、目一杯気に入った配置になるように押していく。親のアドバイスに簡単には妥協しないのは見ていて微笑ましい。木の実や葉っぱを張り付けている子もいる。
「終わりました!」と大きな声が聞こえてくる。作品の名前を聞くと、「どんぐりとはっぱのぼうけん」、「秋の夕暮れ」「ユニコーンのさんぽ」……子どもの創造力は豊かだ。ワークショップでは600人以上の参加があり、600以上の作品が生まれたという。
ばったり出会った人に薦められて、ムジナの庭+小石川植物園環境整備チーム「触れる、香る、味わう植物園」に向かった。アロマミストづくりのワークショップがあるという。正門から一番遠い一角、大きな木が立ち並ぶ森の中に、ブースはあった。
植物園に生えている月桂樹(ゲッケイジュ)の葉(ローリエ)から抽出したエキスをベースに、二十数種類もの精油から2~3種類選んでオリジナルのアロマミストを作るというもの。一つずつ香りをかいで、気に入ったものを手元にキープするのだが、これがなかなか難しい。
同じクスノキ目ゲッケイジュ属のリトセアが一番最初に気に入った。柑橘系を一つ入れようと、マンダリンも決まった。2つでもいいようだが、せっかくだから3種類にしようと思うと、次がなかなか決まらない。フトモモ目のユーカリレモンやティートリー、クスノキ目のホーウッドは入手しやすい精油だし、と考えてしまったり、松脂や樟脳と同じ香りだと思ってしまったり。結局モミ属のシルバーファーを選んだ。
基本的に森の香りがする針葉樹の精油を集めたそうだ。できあがったミストをシュッとしてみたが、植物園の森の中だったせいか、ピンとこなかった。しかし家では十分に森の香りがしたので、植物園の森の香りを持ち帰った気分だ。鏡を拭いたり、窓を拭いたりと、お掃除に使うのもいいらしい。ちょっともったいない気もするけれど。
ムジナの庭は、生活や就労に障害のある方たちのリスタートをサポートする「就労継続支援B型事業所」だそうだ。アクセサリーやハーブティー、クッキーなども販売していた。レジを担当していたのは、植物園の環境整備チーム。障害のある職員とその業務支援にあたるチームコーディネーターのチームだ。
小石川植物園は広い。アップダウンがあって、面積は161,588m²(48,880坪)。「対話する」「味わう」「ふれる」「たどる」「つながる」のテーマで20の出展があったが、到底全部のブースを細かには見られなかった。最後のお楽しみはCRAFT COLA WAVE+伊良コーラ IYOSHI COLA+日本草木研究所「小石川ボタニカルクラフトコーラ」。セキショウとイチョウの2種類あり、両方飲みたかったが、現金が底をつきかけてしまい、セキショウコーラだけいただいた。予想通りの香りと味に舌鼓を打つ。
クラフトコーラ×銭湯の企画や、ギャラリーでの展示、バレエのパフォーマンスなど、園外に企画が飛び出したのも今回の特徴だった。主催者によれば、3日間の延べ来場者人数は13,361人。たいへんなにぎわいだった。また来年も、小石川植物祭で楽しもう!(稲葉洋子、及川敬子、「植物によむ物語」写真、新井三枝子さん)