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お笑いコンビアップダウンが原爆体験伝承漫才「希望の鐘」を文京シビックで公演、地域のお母さんたちが手弁当で企画開催

「原爆をテーマにした世界初の漫才を披露させていただきます」
そんな言葉から始まったお笑いコンビ「アップダウン」のトークは軽妙で、文京シビックセンター小ホールに集まった約250人の観客をすぐさまひきつけていった。

阿部浩貴さん(左)と竹森巧さん

2人は北海道出身で、高校時代の同級生。4年前まで吉本興業に所属して活躍、その後フリーとなり、「ただ面白いだけでなく、世のためになるエンターテインメントを」と活動しているという。ツッコミの阿部浩貴さんは、フジテレビ「とんねるずの皆さんのおかげでした」の「第11回細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」で優勝した「いらっしゃいませがエアロスミスに聞こえるコンビニの店員」を披露。会場は大きな笑いに包まれた。

ボケの竹森巧さんはミュージシャンでもあり、2017年にメジャーデビュー、岩崎宏美に楽曲提供もしており「岩崎宏美さんからセンセイと言われているんですよ」と言えば、また会場が沸いた。プロはトーク一つ、笑いの引き出し方が違う。

一方阿部さんはイラストレーター&デザイナーの顔も持つ。そんな2人が、笑いと芝居と音楽を融合して、日本の歴史を伝える二人芝居に取り組んでいる。2021年に特攻隊をテーマにした音楽劇「桜の下で君と」を製作したことがきっかけで、長崎の被爆二世の方から「原爆をテーマにしてほしい」と依頼が来たそうだ。長崎の出身でもなく、戦争体験もない自分たちがそんな重いテーマを扱っていいのかと自問自答したが、長崎に行って被爆二世、三世の方々から話を聞くうちに、スイッチが入ったという。被爆者からは、すでに大半の人たちに戦争体験がなく、イメージもできない時代だからこそ、ユーモアを織り交ぜ、現代の人に伝わりやすいやり方で伝えて欲しいと言われたそうだ。

こんな経緯は、軽妙な漫才で笑いを巻き起こしながら語られ、会場はみるみる引き込まれていった。そのあとには舞台が転換し、原爆体験が、静かな語りや、二人芝居で語られた。芝居では、阿部さんが少年に扮し、竹森さんが医師に扮した。真剣そのものの芝居と、静まり返った会場が一体化したかのような熱演だった。

中洞さん(右)と安達さん

公演を企画したのは、区内で子育てをする中洞麻衣子さんと、安達千晶さんと、友人知人たちで構成される「語り継ぐ人たち」。そもそもの発端は、中洞さんが2025年正月に特別公開されていたアップダウンの音楽劇「桜の下で君と」をYouTubeで観たことだった。「正直、アップダウンさんのことも知らなかったけど、歌もうまいし面白いなと。追っかけになりました」。2月に竹森さんのライブを聴きに行き、マネジャーとつながって、3月に北品川のレンタルスペースで竹森さんのトークライブを開催。5月には葛飾区亀有のカフェでも竹森さんのライブを企画開催した。飲みママ友だった安達さんを誘って、7月に大田区で開催された原爆体験伝承漫才を2人で観に行って感動し、文京区でも開催したい、と強く思うようになった。

中洞さんは、夫と共に千石で四川家庭料理「中洞」を営んでいるが、以前は児童養護施設で働いていたという。エンターテインメントを使って、子どもの自尊心を高めたり、元気になってもらったり、子どもの自死をなくし、生きやすい社会になって欲しいと願っていた。そんな思いと、アップダウンのエンターテインメントで日本を元気にしたいという思いが一致していると感じた。

安達さんは三世代同居で育ってきただけに、地域に親戚みたいな関係ができるといいなと思い描いていた。加えて、歴史をつくってきた先人たちの、生きて欲しい、私たちのことを忘れないで欲しいという「命の記憶」を、引き継いでいきたいと思った。「命って無条件にすごい、生きているだけですごいことなんだ、ということ、誰でも立ち上がる力がある、ということも伝えたかった」という。「笑うと心がほどける。肩の力が落ちる。そうするとより伝わりやすいかと」

文京区や教育委員会に日参する勢いで、何度も突き返されつつもあきらめず、区と教育委員会の後援を得ることができた。友人知人に声をかけると賛同者が集まってきた。赤字は自分たちでかぶる覚悟だったが、小ホールをほぼ埋めるぐらいの客が集まり、そのうちの2割が子どもたちだったという。

アップダウンの漫才の前には、会場全員で唱歌「ふるさと」を歌った。実はこの曲、文京区にゆかりがある。作曲した岡野貞一さんは文京区中富坂に長く住み、本郷中央協会のオルガニストだった。作詞の高野辰之さんは小日向台町小学校校歌の作詞もしており、2人は「春が来た」「春の小川」「おぼろ月夜」など著名な唱歌を作っている。「ビルばかりの文京区でも子どもにとってはふるさと。このまちにも郷土愛を持って欲しいと思って」と安達さん。「素人の手作り感満載の企画でしたね」と笑う。中洞さんは「今後も推し活を続けつつ、学校での公演とかにつなげたいし、ワクワクすることをやりつつ、何かあった時に助け合えるリアルな横のつながりをつくっていきたいですね」と話していた。アップダウンの今後の予定などはオフィシャルサイトのスケジュールで確認を。直近では12日(日)15:30から竹森さんのトークライブが品川で開かれる。(敬)

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