外は雨。でも室内は子どもの熱気にあふれた空間だった。立体パズルに興じる子。腹筋トレーニング(?)をする子。部屋の片隅で読書する子。大人も混じっていて、やりたいことのサポートをしたり、話し相手になったり。千駄木5丁目の民間学童保育「こどもの森せんだぎ」は子どもたちが自由な放課後を過ごせる場だ。
コロナ禍のさなか、2020年4月にオープンした。特徴は、デンマーク式学童保育。「自分を高める力、コミュニケーション、自分に向き合う力、この3つの力を高める学童保育です」と、運営する株式会社ペタゴー代表の横張寿希さんは言う。
めざすのは「非認知能力」を伸ばす学童保育。IQやテストなどの数値で表される「認知能力」に対し、「非認知能力」は数値では測れない力を指す。好奇心や負けない心などは「自分を高める力」、他者とつながる社会性は「コミュニケーション」、自制心や忍耐力、回復力は「自分と向き合う力」。これらは1人ひとり違い、規律重視の集団生活の中での「お勉強」では身につかない。自由な空間で、やりたいことを探求したり、遊び込んだりしたりする中で子どもたちは身につけていく。
横張さんが学童保育に魅了されたのは、出身地の母校岡山大学で中山芳一准教授に出会ったことだった。中山さんは学童保育の指導員の経験者で、学童保育の現場で子どもたちが自由に過ごし、生きる力を身につけていくのを見てきたという。中山さんから「学童の底力」について学び、いつか自分も実践したいと志した。
また、テストがなく、非認知能力を伸ばす教育を実践しているデンマークの教育にも共感し、自らも現地で短期間学んだ。社名のペタゴーとは、デンマークにおける対人支援にかかわる人全般が持つ国家資格。「たとえば医師は医療の基礎を学んで国家資格を持つが、内科、外科など専門に分かれているように、デンマークでは乳幼児、障害者から高齢者まで、すべての対人支援の専門家にペタゴーという資格があり、幼稚園や学童、高齢者施設などで働いている」と横張さん。そういう思想を根底にしたいという思いがある。
2017年に上京し、会社勤めのかたわら準備を進めてきた。フミコムに踏み込んだご縁から、文京区につながりができて開業につながったという。近隣で学習教室を開く「とうきょう子育て研究舎」をはじめ、区内外の団体や個人と連携しながら、化学実験教室や茶道教室、英語教室など多彩な「探求の時間」も設けている。「やりたいことを見つけるきっかけづくり」だという。関心を持ち、楽しいと思ったことが内面化されることが大事で、遊んで楽しい、で終わらないために、子どもたちがその日の活動でどんな力を身につけたか、「ニュース」の形で記録しているという。
デンマークで学んだ施設長がいるが、横張さんも保育に入ることがある。「なに話してんの~」「そろそろおやつ食べたい」。子どもたちがちょっかいを出しにやってくる。時にはもめごともあるが、「子ども扱いはしない。1人の人間として話をし、丁寧に対話していく」という。
横張さんは学生時代から、学生団体から始まって若者と政治をつなぐ活動をしているNPO法人YouthCreateで活動しており、主権者教育にも関心がある。「子育てと政治をつなぐ」という企画から派生し、NPO法人DAKKOも立ち上げた。主に乳幼児の親子を対象に、自己肯定感を高めることを掲げて活動をしている。8月からはこどもの森せんだぎの場所で、平日午前中に子育てひろばを開く予定だという。乳幼児期から学童期まで、自己肯定感を高め、やりたいことを見つけるための学び舎をつくる。横張さんの挑戦が続く。(敬)