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両親の絵本で育った娘が企画「ヒロシとマリコの手づくり絵本展in NEZU」/芸工展2023まちかど展覧会訪問

根津2丁目、不忍通りと言問い通りの交差点を少し入ったところにある「kitchen haco」で、「芸工展2023」のまちかど展覧会「ヒロシとマリコの手づくり絵本in NEZU」が開催されている。この展覧会の企画者は、はるかさん。絵本作家「ヒロシとマリコ」さんははるかさんのご両親で70代だ。

「父と母は両方とも教師。母は小学校で、父は高校で仕事をしていましたが、母は結婚出産を期に一度退職しました。もともとデザインや絵を描くことが大好きだったので、それを期に、自分の子どものために絵本をつくり、読み聞かせたいと思ったそうです」という。「世田谷区の図書館の講座で、絵本つくりの技術も教えてもらって、そこから初めて作ったと聞いている」とはるかさんは語る。ところが、「それを見て、父の方も興味を持って一緒に絵本を作るようになって」。共著ではなく、別々の本を作るようになった。「基本は先輩にあたる母が指導して。だから父の本には必ず母の名前が『協力』の形で入ってました」と笑う。

はるかさんとお兄さんは父と母の絵本を読んでもらいながら育って、幼稚園に行くようになると家族ぐるみでいっしょに絵本を作るようにもなった。はるかさんが小学生になって旅行にいくと、旅行日記みたいな感覚で、みんなで絵本を作った。

母のマリコさんはキャンプで初めてテントに泊まったとき、写真ではなくてスケッチブックを持ち込んで、その場で起こったことを、どんどん描いて作品にしていったという。本格的に勉強していたわけではないけど、1日1ページ、無地の大学ノートに子どものしぐさや表情を描いていて、なんと51冊程度たまっている。

今回展示の準備で世田谷の実家に行ったとき、はるかさんは、ご両親が「絵本作りが楽しかった」と話しているのを聞いた。マリコさんは絵本を1か月に1冊のペースで作ったが、「多くの人に見てもらいたいとか、出版したいという気持ちは 母にはなかったですね」。作って子どもに見せるのが楽しかったようだ。「父、ヒロシの方が、母の絵本はすごいから世に出したい、もっといろんな人にみてもらいたい、という思いが強かったです」

はるかさんのお気に入りは「3がつ3かにきてください」。ネズミのカップルが偶然見かけたひな祭りの雛壇に憧れて、自分たちも見よう見まねで用意して、お友達を招待するというお話。「とにかく、ネズミたちの描写が丁寧で可愛らしくて、読んでいるとホカホカな気分になります」。ヒロシさんの作品では、「ジャックとベティー」。「父が勤務していた高校で飼っていたジャックという雄のウサギを忠実に記録して書いたお話ですが、イラストの斬新さと、文の生真面目さに思わずクスっと笑ってしまいます」

今回の展示に向けて、ヒロシさんはフェルトで、マリコさんの絵本に出てくるキャラクターをたくさん作った。「展示を盛り上げるため作ろうという発想ですが、77歳のおじいちゃんが、ちくちくちくちく縫って」とはるかさんは笑う。

今でも、ヒロシさんもマリコさんも、絵本を作り続けている。マリコさんはお孫さんに向けて「生きているといろいろなことが起こるけど、大丈夫」というメッセージを込めている作品などを。ヒロシさんは、いろいろな地域にある、伝説にまつわる昔話について、資料を取り寄せて調べ、絵本にして自費出版、図書館に寄贈したりしている。

実は、はるかさんは、今回2作品を印刷して販売してみた。作品ははるかさんが選び、各10冊を初版本として作ってみたが、みごと完売。さらに注文を受けて増刷しているという。一冊1500円だ。

これまでに作られた絵本は約90冊、今回展示したのは10冊ほど。会場となる「kitchen haco」ははるかさんが1月にマネージャーの恵弓(えみ)さんを訪ねて来店し、いろいろ話す中で絵本の話が出て、「ここに展示して、芸工展があるから参加しましょう」という運びになったという。

「7年前は別の場所で展示会をやりましたが、その時は父が病気だったので励ましたくて開催しました。今回は、この春から母が体調を崩して、元気になってほしくて展示したいと思いました」とはるかさんは言う。友人からの依頼もあり、この先も、「ヒロシとマリコの手づくり絵本展 in 〇〇」という形であちこちで絵本展を開きたいと思っている。出版もできたらいいなあという夢があるそうだ。70代の新しい絵本作家たちのデビューが楽しみだ。(稲葉洋子)


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