「外は気持ちいいねー」。黄金色に輝くイチョウ並木の下を、車いすのお年寄りと、オレンジのTシャツを着た人の一群がゆっくり歩く。「首が回らなくてね」とお年寄りが言うと、補助者が「え?借金でもしたの?」と返して笑う。ポカポカ陽気だった11月23日、文京区内で開かれた「RUN伴(らんとも)+文京区2023」のひとこまだ。
「RUN伴」とは、認知症の人や家族、地域住民が一緒にタスキをつなぎながら走るまちづくりのイベント。NPO法人認知症フレンドシップクラブの呼びかけで全国的に始まり、文京区内でも2019年まで開催されていた。コロナ禍を経て、今回は市区町村単位で開ける「RUN伴+(らんともぷらす)」の枠組みで、区民有志の実行委員会で企画、実施された。
テーマカラーはオレンジなので、実行委員会ではランナーやスタッフ用にオレンジのTシャツを用意。「認知症を知る」「多世代ごちゃまぜ」を掲げ、区内の高齢者施設や居場所14カ所をタスキでつないだ。全周約20キロあり、すべて走る全周ランナーは7人。1~2区間を走るランナーもおり、子どもを含め計30人が区間ランナーとして参加。中継拠点では長谷川式スケールによる認知機能検査の体験や、ショートムービーの上映、認知笑カルタで遊ぶなどのイベントの開催もあったため、イベントだけの参加者を含め総勢約380人が参加した。
本部のアカデミー茗台で開会式のあと、ランナーが出発。最初にタスキをつなぐ多世代の居場所「ワークスペースさきちゃんち」では生活クラブ生協の温州みかんジュースが提供され、子どもランナーから車いすの方にタスキが渡された。
次のエーザイまでの道のりはみんなで歩いた。協賛企業のエーザイでは社屋を開放し、脳の健康度チェックや脳トレゲームの提供も。認知症サポーター養成講座も開かれ、約30人が受講した。
協賛事業所の社会福祉法人三幸福祉会が運営する老人ホーム「杜の癒しハウス文京関口」では、「千石足もみ庵」もやっている「蕎麦処ひぃふぅみぃ」の女将さんが入居者らに出張足もみ。ランナーが到着すると、3人の入居者が徒歩で参加し、障害者福祉施設「リアン文京」までの区間をみんなで歩いた。リアン文京ではイメージキャラクターの「ぶんにゃん」もお出迎え。
カフェや子ども食堂を開催している多世代の居場所「氷川下つゆくさ荘」を経て、ごちゃまぜを掲げる「コドモカフェオトナバーTUMMY」では玄米でおにぎりづくりのワークショップが開かれており、ランナーもパクリ。TUMMYからカフェ「風のやすみば」までの坂道は、地域の町会の方をはじめ、子どももお年寄りもごちゃまぜになって歩いた。
区内では先駆的に居場所づくりをしてきた「こまじいのうち」では、近所のデイサービスの利用者が応援に駆け付けた。ここでは認知症に関する紙芝居や絵本の読み聞かせ、認知笑カルタなどの遊びも。
特別養護老人ホーム「千駄木の郷」を経て東大赤門前では、小規模多機能型居宅介護士施設「ユアハウス弥生」の利用者が車イスでお出迎え。一緒に構内の紅葉を眺めながらユアハウス弥生まで歩いた。
シビックセンターを経て特別養護老人ホーム「洛和ヴィラ文京春日」では、京都から駆けつけたという「らくの助」や、入居者の方々が車イスで参加してくれた。近所の保育園の利用者らも駆けつけた。
コースは、GPSの軌跡を使って「顔」を描く「顔マラソン」の監修により、全周20キロを走ると、区の紋章が描けるという趣向だった。ランナーがGPSを持って走る軌跡や、各拠点での到着や出発、イベントの様子はzoomやYouTubeを使ってライブ中継した。
区間を歩いた認知症の方と家族からは「参加できてよかった」という声が届いた。ボランティアの学生は「長谷川式スケールをやってみたが、コミュニケーションの取り方が難しかった。もっと学んでいきたい」と話し、ランナーは「アップダウンが多く、コースも面白かったが、施設の人と交流できてよかった。もう少し各拠点で時間が欲しかったかも」と話していた。
実行委員長の竹形誠司さんは「たくさんの方々にご参加いただき、各リレー拠点でも盛り上がっていたようで、楽しいイベントになったと思います」と話す。「認知症は当事者にもご家族にも大変な苦労がありますが、地域の方々がお互いに協力し合うことで、たとえ認知症になっても楽しく暮らせる街に、少しでも近づけることができたらと思います」(敬)