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東京都内の田畑や古民家で「農体験」と「子育て」、居場所づくり/くにたち農園の会の取り組みを見た

住宅地が間近に迫る東京都国立市谷保の田畑の一角がNPO法人くにたち農園の会の「くにたち はたけんぼ」だ。屋根とベンチがあるだけの場所で、子どもたちとスタッフが、畑で採れた大根や人参、玉ねぎでみそ汁をつくり、タコライスもつくっていた。立派なピザ窯もある。

農体験イベントや日常の居場所事業含め、年間7000人もの人が訪れる場所だが、平日は週3日、「日中の居場所を探している方(子ども~大人)」が来られる「フリースペース はたけんぼ」として開放している。子どもたちが家庭や学校以外で安心して過ごせる「第3の居場所」となっている。

「リラックスできる環境で、何かしようかな、と子どもたちの心が動き出すのです」と、副理事長で子育て事業代表の佐藤有里さんは言う。

建物といえば馬小屋とウサギとウコッケイの小屋、ヤギの小屋ぐらい。畑があって、ヤギがいて、ニワトリがいて、たき火ができて。この日は焼き芋も焼いていた。

子どもたちはヤギと遊んだり、ロープで屋根に上がったり、思い思いに過ごしている。高尾山や御岳山、江の島など、遠出をすることもあり、長期休暇では北海道や長崎に行くなどの「旅するがっこう」という活動もしている。

国立市南部の谷保周辺には、立川から府中へと続く緑豊かな崖の連続である崖線(がいせん)があり、ハケとも言われる。ハケからは豊富な水がわき出ており、多摩川から取水した手掘りの府中用水も残っており、古くから稲作が盛んな土地だ。国立市が、市民が運営する農園モデルを検討したことがきっかけで2012年に「くにたち市民協働型農園の会」が設立され、畑+ハケ+田んぼを組み合わせて命名されたのが「くにたちはたけんぼ(以下はたけんぼ)」だ。

「そもそもは子育て仲間が、畑で子どもを遊ばせながら、飲みながら過ごせたらいいよね、と活動したのが始まり」と佐藤さん。自らも子育てをする中で、「はたけんぼ」などをフィールドにした森のようちえん「谷保のそらっこ」や、小学生向けの放課後クラブ、子育てひろば(地域子育て支援拠点事業)「つちのこひろば」開設など、くにたち農園の会の事業を広げてきた。

団地内で1967年に始まり、50年以上の歴史があった自主保育活動「国立富士見台団地幼児教室 風の子」は、2020年にくにたち農園の会が設置者となって認定こども園になった。URの敷地内の公園にある園舎に、3~5歳児36人が通う。「職員も園長も元お母さん 元園の保護者が多いです」と佐藤さんは笑う。

2017年から事務所を置くのは古民家シェアスペース「やぼろじ」だ。甲州街道沿いの江戸初期から続く旧家「本田家」の一角にあり、築70年の母屋の和室では、「つちのこひろば」を週3日開いている。0~2歳児の親子が自由に出入りできる子育てひろばで、わらべうたや絵本読み聞かせなどのイベントも開いている。このほか、「出張ひろば」として近隣の城山公園で外遊びする日もある。子育て事業は「はたけんぼ」だけでなく、近隣の古民家や自然といったまちの資源を活かして活動のフィールドを広げている。

副理事長で農園事業代表の武藤芳暉さんによれば、「はたけんぼ」の畑と水田の総面積は3000平方メートル。親子田んぼ体験のイベントで、田植え、稲刈り、収穫祭などを企画。このほか、餅つきやしめ縄づくり、小麦栽培のイベントもあるという。農業体験の先駆け的存在で、キャンセル待ちもある。「中央道の国立府中インターからすぐなので、都心からすぐ来て半日で帰れる。その手軽さで人気なのかも」と言う。

農園事業も、活動は広がっている。草木染や調理ができる平屋の一軒家を貸し出すレンタルスペース「畑の家」、隣接したコミュニティ菜園「みんな畑」や、学生団体が運営するゲストハウスも。

活動を始めて10年余。「農体験」と「子育て」の2本柱で、5つの事業所を設けるまでに広がってきた。「最初は畑とバーべキュー施設を運営するぐらいのつもりだった」という「はたけんぼ」という場から、人の輪が広がり、子育てや教育へと活動が広がっている。(敬)


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