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漆の器、使い手と作り手のつなぎ役/茗荷谷の漆のギャラリー「スペースたかもり」の髙森寛子さん

「漆の器は温かいものも、冷たいものも、酢のもの、油ものも大丈夫。普段の食事に普通に使ってほしい」


茗荷谷にある漆器専門のギャラリー「スペースたかもり」を主宰する髙森寛子さんは言う。髙森さんの漆への熱い思いを、大塚地域活動センターで開かれたトークイベントで、文京区在住の伝統工芸ライター関根由子さんがインタビュアーとして引き出していた。

スペースたかもりは、茗荷谷の和菓子店「一幸庵」の3階にある。雑誌の編集者を経てエッセイストとして活躍してきた髙森さんがここを開いたのは28年前。一幸庵が現在地に移転したタイミングだった。

髙森さんが40代で文京区に引っ越してきたころ、一幸庵は桜並木の上の春日通り沿いにあり、客として通っていた。雑談の中で、髙森さんが工芸品にかかわる編集者で、時には展示会企画もすると知った店主夫妻は、時々その催しにも足を運んだという。そんな中での一幸庵の移転話。新築ビルの一部屋をギャラリーにしないか、と声をかけられた。「自分でギャラリーをやろうとは夢にも思っていませんでした」

ちょうど、漆の本を出したときだった。文章は一方通行だが、客と対面できるギャラリーなら、作った人たちの気持ちを直接伝えられるのではないか。バブル経済の時代、漆製品は作れば売れたが、バブルがはじけて問屋が立ち行かなくなり、作り手と使い手を直接つなぐ好機でもあった。「『欲しいもの』を買いたいと思っていた私は、時代のいいところにいました」。作る人と使う人をつながないとモノが動かなくなる。ちょうど、使い手と作り手のつなぎのところにいるのが自分だった。

漆に特化したのは? 「両親が輪島出身で、毎日のみそ汁の椀、おやつ入れ、弁当箱、ごく普通に漆の器があったのです」と髙森さん。漆の道具は日常生活で当たり前の存在だったという。「ところが結婚して初めて、世の中の家庭では漆は特別なもので、暮らしに採り入れるには敷居が高いと思われていることに気づいた」という。漆が好きだったので、自分ひとりが良さを知って使っているのはもったいない。「おせっかいです。黙っていられなくて」

会場には髙森さんが普段使っている漆の器が並べられていた。かつて、ギャラリーや販売店で扱う漆製品は触ってはいけない、触る時は手袋をはめる、という時代があったそうだが、「触ってみて使ってみて良さがわかる。もったいなくて使えない、ではなくて、使わないともったいないです」。漆は使い込むほどつややかになってくるという。

右が新品

新品と、髙森さんが使っている器が並べられていたが、確かに、使い込んだ方がつやつや光っている。「漆のカトラリーもおすすめ。口当たりが穏やかで優しいんですよ」

輪島は2024年1月1日の能登半島地震と、その後9月の豪雨で大きな被害を受けた。スペースたかもりでは、一日も早く立ち直ろうと努力している漆の作り手たちの応援展を続けてきた。そして現在は被災した家や蔵から救い出された漆器を洗浄し修復し塗り直し、現代の器として生まれ変わらせる「輪島塗Rescue&Rebornプロジェクト」の応援も開始。27日まで、「輪島の漆応援展 作り手たちの現在(いま)」を開催している。今回は2025年に完成した定番作品も展示しているが、蔵から救出され、長年使われてきた感触が伝わるように生まれ変わった漆器も並んでいる。

「やさしくて温かくて食べ物がおいしくて、美しい輪島。地震、洪水で心が折れた方たちに、仕事を生むことができた。どうか、忘れないで、買って使うことで支えていただけたら」。お値段は安くはない。でも、傷んでも直しながら長く使えるし、なにより使えば使うほど美しく、味わいを増す漆器は魅力的だ。

髙森さんの最新刊「輪島と漆」に共に編者としてかかわった輪島キリモト代表の桐本泰一さんが、26日(金)、27日(土)スペースたかもりに来場するといい、直接話が聞ける。

ギャラリーにはこの本のほか、髙森さんの「85歳現役、暮らしの中心は台所」も置いてある。「取材を受けても年齢はずっと隠してきたんですけどね、これだけはやむを得ず公表した。そうしたら気が楽になったわ」と話す髙森さん。本が出てから3年が経過しているので、米寿。東洋経済オンラインで「『82歳で台所をリフォーム』し、素敵に暮らす88歳。『60代、70代でリフォームしなくてよかった』と考える、“共感しかない理由”」という記事も公開されており、豊かに老いるというテーマでも時の人だ。

10月のスペースたかもりは、17日(金)~11月1日(土)の金、土のみの6日間「平井岳・綾子 漆の器展」が予定されている。企画は同スペーススタッフの井上牧子。詳細はInstagramで。

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