3月28日(火)は、子どもたちにとっては春休み。池袋の東京芸術劇場にて、「子どもたちと芸術家の出あう街」が開催される。当日のホールでのオーケストラコンサートと、いろいろなアーティストによる芸術体験ワークショップのほか、事前に都内のあちこちに出向いて行うアウトリーチがあり、この三本柱が一つの事業となっている。毎年続けられ、今年で19回目になる。
都内には10団体以上のプロオーケストラがあり、その中の自主運営のオーケストラ4団体(東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団)で、「東京オーケストラ事業協同組合」を作っており、「子どもたちと芸術家の出あう街」は同組合を中心に実行委員会形式で、毎年持ち回りで事業の企画と運営をする。今年は東京交響楽団が幹事を務めている。
先日、文京区本駒込の「駒込地域活動センター」の地下ホールで、11カ所のアウトリーチ事業の一つが行われた。プログラムは東京交響楽団のメンバーによる「弦楽四重奏コンサート」。ターゲットは、3歳、4歳の幼児で、0歳から入場可。参加数は100人くらいだったが、ベビーカーでの来場など赤ちゃん連れの家族がたくさん集まった。
曲目は「モーツァルト・メドレー」から始まり、「ドレミの歌」「Let It Go」「アンパンマン」など。節分の翌日だったので、「赤鬼と青鬼のタンゴ」や「鬼のパンツ」。他にも「どんな色が好き」「あたまかたひざぽん」、そして最後は「はらぺこあおむし」。演奏者が客席に出てきて、子どもたちと踊ったり話したりする場面もあり、子どもたちにとても近い位置でプログラムは進められた。1時間弱のコンサートで、終演後、参加した親子は心から楽しんだ表情で帰っていった。
その日、マネージメントをしていた東京交響楽団事務局、千駄木在住の桐原美砂さんにお話を伺った。桐原さんは大学を卒業後、ずっと音楽関係の仕事を続けてきた。「この事業には5回関わってきましたが、4年に1回の当番制なので、かれこれ20年近くになる」という。ご自身も大学時代に学生のアマチュアオーケストラに所属し、ビオラを担当、自分たちで演奏もするし運営もして、全部自分たちでやるっていうのが楽しくて、「そういう楽しい仕事が世の中にあるんだ、そういう仕事をやっていたい」と思ったという。東京交響楽団では2016年から事務局の仕事をしている。
「『子どもたちと芸術家の出あう街』が始まったのは、自主運営のオーケストラ4団体が、普段活動の地盤としている都内で、子どもたちのための事業としてのプログラムを東京都に提案して始まりました」。震災の時1回中止になったが、それ以外毎年続けられている。
「4つの団体はそれぞれ特色があって、持ち味も少しずつ違うオーケストラなので、全体のテーマとかプログラムとか、毎年そのオケの持ち味がものすごく出る。毎年違ってバラエティが豊かになる。去年よりおもしろいって言ってくれるように、新しいことに挑戦したり、内容が濃く広くなっていったり、どんどんブラッシュアップされています」一方で、実行委員会は1年で解散、翌年結成を繰り返すので「文化祭みたいな感じで苦労も多いです」とも。
今年の「子どもたちと芸術家の出あう街」は、バレエ、雅楽、京劇、ガムランなどのワークショップは、定員の4倍の申し込みがあったという。ワークショップは締め切ったが、「出会う街角ライブ」「JAL折り紙ヒコーキ教室」は当日参加できる。オーケストラコンサートは、東京交響楽団の正指揮者の原田慶太楼さんの指揮による。
「原田さんは、小さい時からインターナショナルスクールに通って、その後、渡米されて、今はアメリカのオーケストラの音楽監督。本当に世界中を飛び回って演奏している人でとてもおもしろい方です」と桐原さんはいう。コンサートのタイトルは「東京交響楽団の音楽チャーター便」。指揮者の原田さんが機長の役になり、オーケストラと世界一周するというプログラム。会場内も飛行機に乗っているように演出されている。「クラシックは、とかくヨーロッパの音楽に偏りがちなんですけど、今はヨーロッパ以外にもすばらしい作曲家がいて作品がたくさんあるので、それを世界一周という形でオーケストラの演奏で聴いていただきたいです」
当日観ることができる、雅楽、京劇、ガムランも予定され、「子どもたちと芸術家の出あう街」特設サイトやFacebook、Twitter、InstagramといったSNSで随時公開されるという。東京交響楽団は、「おもしろい事や挑戦的なことは得意なオーケストラ」とのこと。それが存分に発揮されるイベントになることは間違いない。
文京区で2人の子どもを育ててきた桐原さん。子どもたちが音楽を好きになっていくには「音楽を好きな人が周りにいたらいいんじゃないですかね」という。「耳で聴くだけではなくて、演奏する人がいて音が流れるという、ライブの音の立体感、手ざわりみたいなものが感じられる空間や体験があれば」。だからライブにはぜひ参加してほしいという。「クラシックに限らず、連れて行く大人が好きなものがいいんです。あなたが夢中になるほどの何かを私にも分けて、っていうふうになってくる。おいしそうにチョコレートを食べていれば、どれだけおいしいものなの? ってなるじゃないですか。音楽も一緒」。いきなり難しいものではなく、その子に合った快適な空間や情報量を与えるのが一番いいそうだ。しかし、押しつけない。「これはこんなところがいいんだよ」とか、「もうすぐ出てくる次のリズムが最高にかっこいいんだよ」とか、勧めるスタンスがいいようだ。(稲葉洋子)