神戸市長田区の多世代型介護付きシェアハウス「はっぴーの家ろっけん」(過去記事参照)の日常を描いた映画「30(さんまる)」の上映会が7月13日、跡見学園女子大ブロッサムホールで開かれ、100人以上が来場した。制作した鈴木七沖(なおき)監督も来て、区内の高齢者施設関係者らとのトークライブもあった。この映画は、映像で場をつくるプロジェクト、「大人の紙芝居」の一環として制作されたといい、ただの上映会だけはお断りしているそうだ。トークライブでは、普段から人と人とのつながりをいかに作り、深めているのか、その「関係性」が大事、といったコミュニティについてのトークで盛り上がった。

認知症の啓発やまちづくりイベントなどを手掛けるRUN伴文京区実行委員会の主催。映画は、はっぴーの家ろっけんの運営者首藤義敬さん、美幸さん夫妻ら撮影当時30代の6人のインタビューと、日常の風景で構成されている。6階建てのはっぴーの家ろっけんは上階は高齢者住宅、1階は地域に開放しており、近所の子どもたちや子育て中の家族、外国人も障害者も、様々な人たちが出入りするカオス(混沌)な空間。首藤さんが「違和感は3つ以上重なるとどうでもよくなる」と言っている通り、撮影時も、入居者同士がけんかを始めたと思ったら小学生が小競り合いを始め、ヘルパーさんたちも議論白熱している様子が見られ、カメラを止めてしまったとか。

トークライブでは、跡見学園女子大観光コミュニティ学部まちづくり学科教授の土居洋平さんが「地域交流センターの仕事もしているが、地域の仕事は計画通りにはいかない。日々のご縁で積みあがっていくところが、映画とシンクロした」。小規模多機能型居宅介護施設「ユアハウス弥生」管理者の石田英一郎さんは「私たちも日々、地域とどうつながるか、試行錯誤している。はっぴーのような形は一足飛びにはできないと感じた。少子高齢化が進行していく中、いかに年齢や価値観という境界を超えてつながれる寛容な社会が作れるかが地域づくりの肝だと再確認する機会となった」。有料老人ホーム杜の癒しハウス文京関口生活相談員・地域相談員の森山友貴さんは、「看取りケアの形は理想的だと思った」などと感想を述べた。

鈴木監督は「はっぴーの家ろっけんは生きもの。3年間通い詰めたが、ちょっと目を離すと別ものになっている、細胞のようなイメージ。首藤さんは混ざり合っていくきっかけを作る人。違和感に違和感を重ねて面白がっている」と話す。「行政の『子育てしやすいまち』みたいなスローガンに住民がピンとこないのは、普段からの関係性が希薄だから。はっぴーでは人と本気で関係する。日々の暮らしの中での深いつながりがあってこその『〇〇しやすいまち』のはず」。映画で取り上げたような若い人たちについては「感性を持っている。編集がうまい。0を1にすることより、1を5にするようなことができる。活動しやすいような環境をつくることが大事」と話していた。

映画については、半数近くの人からアンケートで感想が寄せられた。映画では、首藤さんが、施設はこうあるべき、妻はこうあるべき、といった世の中にあふれる「べき」を捨てた、と話すシーンや、余命宣告された方が若い職員の悩み相談に「大事なのは今や」と答えるシーン、その方の葬儀がパーティーのようににぎやかだった様子などが描かれていた。感想では「『べき』の枠から自分を外す、などの言葉の数々が心に深く響きました」「今、今、今、いまが大事」「ゴチャ混ぜが創り出す無限の可能性を感じました」といった感想が寄せられた。
自主上映会は各地で企画されている。詳細は映画30のサイトで。(敬)

