「一葉の伊勢屋質店を残す会」発足、会長に森まゆみさん/年明けに要望書を区に提出へ

旧伊勢屋残す会発会式

解体の危機が浮上している本郷・菊坂の旧伊勢屋質店の保存に向け、市民有志による「一葉の伊勢屋質店を残す会」が12月28日に発会式を開き、作家の森まゆみさんが会長に就任した。文京区議会は25日付で区長宛てに、区が更なる取り組みを進めるよう求める要望書を提出しており、「残す会」も発会式に参加した約80人の「出席者一同」と共に年明け2015年1月5日にも、区に買い取りを求める要望書を提出する予定だ。発会式に参加した区の担当者によれば、いったん途切れている所有者と区内の大学側との売買交渉を再開させるべく、仲介に動いているという。しかし所有者の土地売却の意志は変わらず、建物解体の危機的状況は依然、続いている。

 伊勢屋公開アップ用(2014年11月23日の一般公開。約700人が訪れた)

 

旧伊勢屋質店(文京区本郷5-9-4)は明治20年に土蔵が鹿浜村(足立区)から移築され、見世は明治40年に建てられた登録有形文化財。残す会によれば、作家・樋口一葉が菊坂などに住んでいた極貧期、日記に「伊勢屋が元に走る」などと10回以上記述しており、毎年11月の一葉忌に合わせ、区内のまちづくりや文化財保護団体が一般公開を担い、13年間で延べ約1万人が訪れた。一葉ゆかりの建物では唯一現存するものだといい、周辺には古い旅館や銭湯などもあり、本郷地域の重要な観光資源の一つになっている。

伊勢屋蔵のはり

(明治20年に移築された蔵の梁)

 

区の担当者によれば、個人では建物の維持管理が難しいということで、2014年5月ごろ所有者から区に借りてほしい旨の相談があった。区は区内の複数の大学に活用について呼び掛けたところ、1大学が手を挙げ、区も運用のための予算を計上。交渉の間、賃貸ではなく大学が買い上げる方向になったが、条件面で折り合わず、11月下旬に所有者が民間不動産会社に売ることを決めたという。残す会によれば、旧伊勢屋質店の敷地は42坪あり、周辺の地価から坪単価は300万円程度とされるという。

伊勢屋座敷

(明治23年に建てられた奥座敷)

 

文京区議会は全会派幹事長名で25日、「旧伊勢屋質店の保存に関する要望書」を区長宛てに提出。買い取りの要望までには至らなかったものの、保存活用を求める方向で一致した。また、所有者と面会した残す会のメンバーによれば、土地売却の意志は変わらないものの、当初は更地にして売却するつもりだったようだが、購入者がいれば壊さず譲りたい意向を示したという。市の担当者にも、民間不動産へは建物を解体せずに売ると言ったといい、区は再度、大学側に交渉再開を依頼した。残す会としては、交渉がまとまればいいが、決裂する可能性もあるため、区に買い取りを求めていくという。

伊勢屋入口

(旧伊勢屋質店の入口。左が蔵の入口)

 

残す会は、旧伊勢屋質店の一般公開を担ってきた「たてもの応援団」と「文京の文化環境を活かす会」のメンバーを中心に12月12日に結成。17日の緊急シンポジウムでは、建築家の伊郷吉信さんが、旧伊勢屋質店は江戸町屋を継承し、土蔵の火事への備えや正面の意匠などが貴重だと指摘。「建物が残ることで記憶が残る。なくなってしまうと、そこでの暮らしや町の様子の記憶が失われてしまう」と話した。残す会会計を担当することになった建築家の大嶋信道さんによれば、明治20年に土蔵を鹿浜村から移築した際の売買契約書、大工や左官の職人の名前や、道路を使う許可を得るための専用願などが多数残っており、文書の豊富さからしても文化財的価値があるという。また、周辺には一葉の井戸といわれる古井戸や、老舗の銭湯や旅館、和菓子店や金魚店などもあり、外国人にもアピールできる資源がそろっている。伊郷さんは「10年前に構造補強もしており、建物は使える状況ではある。なんとかあの場所で残せれば」と話している。(敬)

伊勢屋店部分