文京区の町名変更があった昭和40年ごろ、「弥生町」の町名が根津に変わるというので、住民が反対して、「弥生」という町の名前を残した。当時話題になり、詳しくはないが記憶している。旧町名は「向ヶ丘弥生町」、今の弥生1丁目と2丁目にあたる。いわゆる弥生式土器というのは、明治17年(1884)この辺りの貝塚で発掘されたもので、この地の名にちなんで命名されたという。
その「向ヶ丘弥生町」が明治5年にできたとき、新しい坂道がつけられ、町の名をとって「弥生坂」と呼ばれようになった。「弥生坂」は、不忍通りの「根津」から東京大学の間を抜け本郷通りまで続き、言問通りとも重なる。かなりの部分、東京大学農学部や工学部を含んで、通り沿いの町並みは、古い建物が多い。もちろん近代的な建物もあるが、町自体がどっしり昔ながらの建物を残そうと意図しているようだ。
そんな弥生坂にあるお店、「弥生坂 緑の本棚」を訪ねた。「心落ち着くカフェ」と聞いていた。
店頭には多肉植物がいっぱい、植物関係が多いのだが本棚にびっしり並べられた古書たち。多くの作家が手掛けたグッズ。ゆったり落ち着く奥のカフェスペース。そしてその先はテラスになっていて、そこでもくつろげる。
店主の、綱島則光さんにお話を伺う。
「開店したのは、2016年2月、もうちょっとで5年半になりますよ」。ご自身は、生まれも育ちも大田区大森、お店には大森から通う。「この店を始める前、ここでブックカフェをやっていらした方がいて、同じ古本のネット通販の会に加入していましたが、その方がご事情で店を続けられなくなり『どなたかここでお店をやらないか』とサイトで紹介されていて」
見に来て大いに気に入ったという。「テラスもあり、店頭にスペースがあり。植物と本とちょっとおしゃべりできるようなお店が欲しいと思っていたので、まさにぴったり。それで決めさせてもらいました」
店内もほぼそのまま引き継ぐ形で買い取った。店頭やテラスなどの外はご自身でデザインして作ったという。
なぜ多肉植物なのか。
「僕はもともと30年近く花屋の仕事をしていたのですが、業界はだんだんと右肩下がりで、以前の半分くらいに落ち込んできていました。『何かしていかないと』と思っていたとき、廃棄する古本をプランターとして使い、そこに植物を飾るという仕事が入りました。それがとても綺麗で」。それがきっかけで、「本と植物」を合わせたら面白いことができるのではないかと思ったという。
しかし、「木のそばに植物があるというのは雰囲気はすごくいいのですが、水をやらなきゃいけないし、湿気は出るし、植物と本は、分けておかないと厳しいんです」。そこで植物の知識からのアイデアで、あまり水を使わない多肉植物や、土に植えないで育つエアプランツを中心にやっていくことにしたという。カフェの方も、多肉植物を使ったメニューを取り入れた。
食べる多肉植物「グラパラリーフ」とチョウマメの花のお茶「バタフライビーティー」を注文してみた。「グラパラリーフ」は、渋みがありそうという想像と違って、サクサクとみずみずしく、爽やかな食感。チョウマメのお茶はさっぱりした味で、酸味を加えるとリトマス試験紙のように色が変わっていく様はとてもきれい。
経営の醍醐味は?
「本の著者と繋がったことが大きいかな。植物関係の本を書いている方が、こちらのSNSの発信を見つけてくれてお店に来て下さり、新刊を出すときイベントで店を使ってくれたり、展示にも使ってもらったり」。店内にはいろいろな作家の作品やグッズも所狭しと飾られ販売されている。
コロナの影響で、最近はイベントもなかなかできない。食虫植物の「ウツボカズラ」の袋にご飯をつめた「ウツボカズラ飯」をみんなで食べるイベントも人気を博していたが、それもできない。「今は営業を続けていくっていうのが先で、まずは来て下さるお客さんを大事にしていきたい」と綱島さんは語った。コロナが収束し、おもしろいイベントや遠方のお客さんが戻ってくるのが楽しみだ。(稲葉洋子)
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