まちを「つくること」ではなく「つくろうこと」と捉えてみてはどうか――そんな考えが出発点にある建築家の佐藤敬さんと、あふれんばかりの植物愛を語る小石川植物園園長の川北篤さん。10月下旬に開かれる小石川植物祭を前に、2人をゲストにフミコムcafeがこのほど開かれた。
まちを「繕(つくろ)う」
建築家ユニットKASAを主宰する佐藤さんは植物祭の総合ディレクターだ。植物園の隣に住んでおり、窓から小石川植物園が見える。「窓辺の植物園の風景を眺めながら、何かやれたらと思っていて、企画を考え始めた」という。
「まちはすでにある。つくる、のではなく、繕っていくという発想に」。いま、千川通り沿いの元印刷工場を改修し、アトリエにしている。
ヴェネチア・ビエンナーレに出展し現地を訪れたとき、「みんなでまちを繕っている」と感じたという。ビエンナーレという祭りでまちに個性が生まれていた。こういうことが文京区でもできないかな、とうっすら思っていた。KASAはヴェネチア・ビエンナーレでロシア館の改修と展示を手がけ、「特別表彰」を受けた。「繕うと捉えてみる事で何かを単体で考える事から逃れられ、全体性を持って考えらる、それは現代的な事かもしれない。ロシア館は100年前の建物を、100年後を考えて使えるものに、創造性を広げられるものに繕った」
植物園は文京区の真ん中に位置する。植物園が町会と町会を隔てている側面もあるので、植物祭の企画を通じて横につながっていけるのではないか。また、例えば染物店だったら、植物園の植物で染め、植物祭で展示販売する。それに触れた来場者が作品を通じて植物に関心を持ち、植物のある暮らしや学びへとつながっていく。そんな好循環が生まれたら。「植物園は数百年も大昔からまちを見守ってくれている場所。それはまちが誇るべき個性。『植物園のまち、文京区』ぐらい広がりを持ってみんなで考えていきたい」と佐藤さん。
植物愛が熱い植物園長
続いて川北園長。小石川植物園の正式名称は「東京大学大学院理学系研究科附属植物園」、東京大学の施設だ。川北さんも植物生態学、植物進化学を専門とする教授だ。植物園そのものは江戸時代の御薬園に始まり、300年以上の歴史を持つ。
「オオシマコバンノキという木がありまして、この木はハナホソガというガだけに受粉を頼っており、このガと共生関係にあるんです」
「桜の葉っぱから蜜が出ているって知ってました?アリを引き寄せるためです。葉を食べる害虫から葉を守る知恵です」
「タラヨウは郵便局の木とも言い、葉に文字を書けるんです。葉書の語源となっています」
話し出すと止まらない。「植物園は閉鎖的というご批判があることは承知しています。植物祭は、地域に開かれ、必要とされる植物園となる第一歩にしたい」と川北さん。「学びの場にもなればと。文京区民はみんな、桜の葉から蜜が出ることを知っている、ぐらいになれば」
イベントの定員は40名だったが満席で、植物園への関心の高さがうかがわれた。参加者同士の意見交換でも、「近所に住んでいてよく通っている」という人ばかり。質疑タイムでは、「入り口をもう一つ設けてほしい」「ナイトツアーやサイエンスカフェをやってみては」「おしゃれなカフェを作って欲しい」などの意見が出された。
小石川植物祭では、9月16日まで、運営ボランティア、当日ボランティアを募集中だ。申し込みはフォームから。(敬)
【小石川植物祭概要】
共催:KASA / KOVALEVA AND SATO ARCHITECTS、東京大学大学院理学系研究科附属植物園
開催日:2022年10月21(金)、22(土)、23(日)。
雨天の場合は翌週の28(金)、29(土)、30(日) に延期。(決行の有無や当日のスケジュールはSNSにて情報発信)
会場:東京大学大学院理学系研究科附属植物園 (通称:小石川植物園)
助成:文京区社会福祉協議会Bチャレ(2022年度提案公募型協働事業)
後援:文京区
問い合わせ先:info@kovalevasato.com (KASA)