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「お散歩トークカード」アプリで谷根千のまちを体感/芸工展2024・まちあるきイベントに参加してみた

「地域作りとか、まち作りとか、コミュニティ作りって、頭の中の世界じゃなくて、実際まちに触れたり感じたり、そういうところから始まるのだろうなって」。芸工展企画参加の「谷根千まちあるきを楽しもう」について、根津にスタジオがある「株式会社エンパブリック」のソーシャル・プロジェクト・ファシリテーター渡邉さやさんは言う。

今回芸工展で、「谷根千まちあるきを楽しもう」に取り組んだ理由について、この仕事歴4年の渡辺さんは次のように話す。「コロナがあり、長いこと対面のイベントが出来なくなり、オンラインに移行してしまっていました。コロナが明けたとき、対面でみんなで一緒に関わることってやはり大事だよね、って話していたら、ちょうど『芸工展』の話があって。みんなでまちを体感したいという話になりました。インターン生にも体験してほしいなと」

出発前に、「お散歩トークカード」のアプリを手持ちのスマホなどにインストールする。このアプリはこのイベントのためにエンパブリックが開発した。開くと、谷根千の「マップ」「スポット一覧(谷中銀座とか根津神社などまちのスポットの一言紹介)」「おしゃべりテーマ」が見られる。おしゃべりテーマとは、たとえば藝大アートプラザをクリックすると、「これから芸術を学ぶとしたら、何を学んでみたい?」と、みんなで話すためのテーマが提示される。

まちあるき時間は20分ほどなので、全部は回れない。行ってみたいところを案内してもらえるというので、上野桜木の平櫛田中邸アトリエで開催されている「360°photogallery」をリクエストする。國學院大學観光まちづくり学部椎原ゼミの学生たちが主催する展示で、その日が最終日だった。

渡邉さん(左)と富井さん

根津のスタジオを出発、渡邉さんをリーダーに、案内はインターン生で慶應義塾大学総合政策学部4年生の富井優花さん。「谷根千のまちは静かなのが好きです」と富井さんは言う。谷根千といえば、「昔ながらの風情」「社寺」「細い路地や階段」「古民家のギャラリーやカフェ」「庶民的な商店街」など、目に見える景色のことはよく取り上げられるが、音のことはあまり紹介がない。

「まちあるき」をしながら改めて耳を澄ますと、「お寺から聞こえてくる木魚の音」「読経の唱和」「新内の稽古所から聞こえる三味線の音」「まちを歩く人の靴音」「連れ立って歩く人の話し声」「鳥の声」「風に揺れるねこじゃらしの音」などさまざまな音が聞こえる。都会の騒音と違い、どれも生活を感じさせる暖かい音で、それがかえってまちの静けさを感じさせるのに気づく。

不忍通りを渡って、言問通りを少し上がって左折、普段の私なら自転車が滑り落ちるのが心配で必ず避ける急な三浦坂へと向かう。

息切れしながら上り切ったところにある宗善寺の門前で、アプリを開くと、「あなたが印象に残っている『坂道』のエピソードはありますか」というおしゃべりテーマが出てきた。坂だらけなまちなので、エピソードだらけだと迷っていると、そこで、時夢草庵で展示中の水墨画家ジム・ハサウェイ氏の夫人にばったり。路地の奥にある、庵の雰囲気いっぱいの時夢草庵に立ち寄って水墨画を堪能。

途中、お寺の煉瓦塀が壊されているところがあり、中に何百体もありそうな羅漢像を発見、長年通っている道なのにそんな仏像が中にあることはまったく知らなかったので驚く。

旧平櫛田中邸では、学生たちから360°の写真展示を見せてもらい、学生たちの楽しい発見の話や、苦労話などを聞いたりして盛り上がる。

その後は、お稽古横丁やお寺の横の細道を通り、個人宅所有の井戸のそばを抜けてお寺の門を裏門から表門へと出て、言問通りに戻り、根津のエンパブリックのスタジオにもどった。

「谷根千まちあるき」は、飛び入り参加もいて、盛況だったという。今回、ほぼしゃべりっぱなしの「まちあるき」は、知らないことを知ったり、知らなかった人と話したり、ただ景色を見るだけではなく、とても濃い時間だった。まさに「まちを体感」した。

「谷根千は、小さいものを繋げながら、人々の暮らしが人々によって運営されていて、自分たちの暮らしを自分たちでよくしていく文化が根付いています」。そういうことが、これから日本の社会全体に、必要になっていくのではないか、と渡邉さんは考えている。エンパブリック代表の広石拓司さんがスタジオを根津に作った理由は谷根千の暮らしのそのあり方にあるという。スタジオは今年で16年目になるが、最近は特に「地域起こし」や「コミュニティ作り」に取り組んでいる。

この谷根千のモデルを他の地域にも広げていきたい。渡邉さんは「他の地域でも、そこの人々が自ら動き出せるようなツールやノウハウを作り、最初は伴走しながら、どういうふうに問題解決していったらいいか一緒に考え、最終的にはすべてやり方をお渡しして自走していけるようにしたい」と言う。『まちあるき』がそういう動きのスタートになれば」と話していた。(稲葉洋子)


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