2035年の日本では、金融資産の7割近くを保有するのが高齢者層になるという。そのほんの一部でも若者や地域に回せないか――そう考えた1人の司法書士の女性が立ち上げた一般社団法人日本承継寄付協会の事務所が、文京区小石川にある。文京区とも連携して、セミナーの開催や情報誌の配架などもしている。
代表で司法書士の三浦美樹さんが2019年に立ち上げた。きっかけは高野山への1人旅だったという。三浦さんは学生時代に交通事故に遭い入院、リハビリの気を紛らわせるために試験勉強し、司法書士に。相続を専門に様々な顧客の困りごとの解決を10年してきた。高野山に到着したとき、古くからそのままある宿坊のたたずまいに、「先人たちが送ってきた恩によって、今自分が生かされている」と気付いたそうだ。世の中には貧困や障害で困窮する家庭がある。仕事上、遺言がないために故人の遺志が引き継がれないケースもみてきた。遺贈寄付がもっと知られれば、遺言がWill = 意志ある形になるのではないか。これまでもらった恩を、返したい。そう考えたという。

高齢化が進行し、80代~90代で亡くなる人の遺産は60~70代の子どもが相続。消費より貯蓄傾向が強いので、貯めたまま高齢になり、亡くなるとまた60~70代の子どもに相続・・・という「老老相続」が繰り返される。そうすると2035年には金融資産の7割を60代以上の高齢者が保有することになるそうだ。また、高齢の親世代の多くが地方に住んでおり、都会に出た子ども世代に相続されると、地方から都市部への資産流出にもつながる。さらに、おひとりさまや夫婦2人だけ世帯が増えており、亡くなったとき、遠い親戚が相続するとか、相続する人がいなければ国庫に入れられるとか、故人の意図しないことも起こりうる。
事務局の松本侑子さんは、「自分らしくお金を残すという選択ができる。そのことを知らない人が多い。私たちは遺贈寄付という手段があることを発信し、遺贈寄付を文化にすることを目標にしています」と話す。国内の年間相続額は50兆円なので、その1%が毎年遺贈寄付になると、5000億円が次世代へつながる。「すべての人が1万円といった少額から可能です。社会貢献から遠いと思っている人たちが関心を持ってくれています」
毎年千人に遺贈寄付に関する調査をしてきて、昨年「遺贈寄付白書」を発行した。だれに相談したらよいかわからない人が多いので、税務や法務の知識を持ち相談に応じられる遺贈寄付の専門家「承継寄付診断士」の養成・認定をしており、これまでに400人が受講した。寄付の基礎知識や寄付先の情報を掲載している情報冊子「えんギフト」を年に1回発行。累計3万部に達し、全国の公証役場や士業の事務所に配布している。文京区のほか、静岡市、静岡県掛川市、裾野市、鎌倉市、埼玉県草加市と連携協定を締結しており、セミナーの開催などもしている。
また、遺贈寄付をするための遺言書作成にはおよそ10万円からの費用がかかるため、遺言書作成費用を助成するフリーウィルズキャンペーンを実施。原資は寄付だけで2000万円集まり、244件の申請があった。「これだけで38億円ぐらいの遺贈寄付につながる見込み」という。
協会そのものは現時点では遺贈寄付をもらっておらず、仲介の手数料もない。「よくどうやって収入を得ているのかと聞かれますが、約30団体からの協賛と、個人や団体からの寄付でまかなっています」と松本さん。遺贈寄付が知られ、関心を持たれるための道を耕すのが協会の役割だそうだ。「耕すことだけを考えましょうと、代表には言われています」。昨年度のフリーウィルズキャンペーンの原資2000万円は、代表の三浦さんのプレゼンがきっかけで一気に集まったという。今年も秋ごろ始める予定だ。
松本さんは、「遺贈寄付は自分へのギフトであり、未来へのギフトでもあると思う」と言う。情報冊子えんギフトは文京区役所や公証役場で入手できるが、請求があれば送付してもらえる。設置できる場所も募集しているそうだ。設置費はかからないという。詳細はサイトで。(敬)