本日の樽生ビール。「箕面ビール(大阪府)ピルスナー」「鬼伝説(北海道)ペールエール」「飛騨高山麦酒(岐阜)スタウト」・・・六義園の近く、本駒込に2025年1月に開店した「蔵くら」のメニューには、クラフトビールの定番が並ぶ。「全国的にマイクロブルワリーやブリューパブが増えて、特産品を原料に使ったビールなども出てきたけれど、ここは基本のおいしい国産ビールを提供します」とマスターの田中慶さんは言う。
「蔵くら」といえば、伝説の店なのだという。クラフトビールが「地ビール」と言われた時代、地ビールに特化したビアパブの全国第2号店だったとか。それは、千石3丁目でコドモカフェオトナバーTUMMY(過去記事参照)を営む橋本菜生美さんから聞いた。橋本さんはかつて、富山で全国3番目に地ビールパブ「NITA」を開いた人なので、クラフトビールに詳しい。(そもそも、蔵くらが本駒込に復活した!と興奮気味に発信していたので、同行してもらったのだった)
蔵くらは1999年に下北沢で開店。2009年に神田に移転し、2019年まで営業していた。「下北沢の店には富山から毎週通っていた」という橋本さんによれば、神田の店で田中さんは蝶ネクタイで店に立っていたので、やや近寄りがたい印象だったとか。今はにこやかで誰とでも話しやすい雰囲気のマスター。そういえば、どこかで会ったことがあるような?と思ったら、橋本さんに誘われて行った浦和のビアバーで客として出会っていた。伝説の人とは思えない、ただただビールが大好きなおじさま、という雰囲気だったけれど。
「はい。神田の店をやめてからは全国のビアフェスで飲んだくれてましたよ」と田中さん。ビアパブをやっていると、外に出られるのは定休日ぐらい。そこで、10年間飲んだくれよう、と店を閉めて全国の醸造所やビアバー、ビアフェスなど飲み歩いてきたという。とか言いながら、実はジャパンクラフトビアパブ協会を2013年に立ち上げて理事長となり、各地を歩いてビアマップづくりをしていたのだった。マップには1200件以上掲載している。
趣味がジョギングで、本駒込周辺もジョギングコースだ。たまたま通ったら、今の物件が空いてることを知り、「これぐらいのスペースなら1人か2人でのんびりお店ができるかな」と思って、蔵くら再開を決めたのだという。
こんな話を、「HOPDOG BREWING(秋田県)Hazy IPA」を飲みながら聞いた。最初の1杯に選んだのは限定と書いてあるのに弱いのと、「フルーティーな香りと苦味に独特な風味」と解説されているのに惹かれた。Hazyは少し濁っている、ぐらいは何度か飲んでいるのでわかる。香り系が好みなので、フルーティーさとほどよい苦味が心地よかった。うむ、さすが。
「苦みをしっかり感じられるペールエールの見本」と書いてある鬼伝説ペールエールも飲まないではいられなかった。スタイルごとに偏らないように、さっぱり系のラガーから苦い系、黒まで、まんべんなくそろえている。「誰が来てもどれか飲めるものがあります。炭酸が強くなくまろやかで、麦の甘みや風味が感じられるものを出しています」
20年もビアパブをやってきたので、おいしいビールの管理法やつぎ方を心得ている。「泡なしで出すのは感動がない」と、つぎ方にはこだわりがある。グラスも、円錐形のピルスナーグラスや、ドイツ系のヴァイツェングラスも備えており、ビールのスタイルによって使い分けている。

飛騨高山麦酒のビールは置いているところが少ないレアものだというので、やはり「限定」と書いてある飛騨高山麦酒のカルミナも飲んでみた。「アルコール度数が10%と高く不思議な味わい」と書いてあるが、度数が高いように思えないまろやかさとコクに驚いた。色から受ける印象ほど苦くない。「黒い宝石」と言われているそうだ。
「その醸造所の得意なスタイルをみて選んでいる」と田中さん。「作り手、飲み手、売り手、みんながつながっている。それがクラフトビールの魅力の一つです」という。「古くからの定番は間違いないし、おいしい」。クラフトビール目利きの言葉は重い。
1月だから和装だという粋な田中さん。物腰も柔らかで、聞かなければ静かにたたずんでいるけれど、尋ねれば何でも答えてくれそう。「定番のおいしいビールに出会って感動してほしい」。地ビール解禁30周年らしいが、その黎明期からの「生き字引」のようなマスター、ここに来たらつかまえて話を聞かないわけにはいかない。(敬)
Craftbeer&cafe 蔵くら 本駒込6-15-9 フォレスタ六義園1F
営業時間:平日 16:00〜22:30 土日祝 15:00〜22:30 定休日:火曜日