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自給率をあげる「食材選び」、観光客向け「体験イベント」も/交流・体験space「九条Tokyo」

東京メトロ千代田線「根津駅」を降り、言問通りを台東区方面に。2つ目の路地を右折、元魚善があった建物の2階に、「九条(くじょう)Tokyo」(台東区谷中一丁目)はある。入口の階段には、歴史年表のように戦国時代の戦い、年号、武将が描かれた絵が貼られ、1555年の「厳島の戦い」から年代順に進み、1615年「大阪夏の陣」で2階に辿り着く。途中には三方ヶ原の戦いや関ヶ原の戦いも。

「イベントの一つとして『歴史トーク』というのをやっていて、参加者の一人が武将絵を100枚描いた記念に個展をやったのですが、彼が設計関係の人で、ただ並べるのではなく、階段や家具のサイズに合わせて描いて。その個展の名残りですね。以降みな武将を足蹴にしてここへ上がってくるわけです」とカウンターの中でマスターの小林正峙さんは笑う。なんでも、武将絵はその末裔といわれる人を訪ね、骨格を調べて描いたものだというから驚く。

奥にキッチンがあり小林さんが一人で調理をして、10人ほど座れるカウンターで来客に食事とドリンクをふるまう。取材に伺ったのが4月8日、隣接したお寺の満開の桜がちょうど窓からすぐのところに眺められた。

ご本人の著書「足はいつだって前を向いてるじゃん」(2021年6月九条Tokyo刊)、「お手紙こうかんはじめました。」(2020年4月九条Tokyo刊)、「テリマカシ—森の人からのメッセージ」(2002年4月道出版刊)といった本や、親しい方々の著書のコーナーがあったり、大きなスクリーンがあったり、店内はわくわくするものでいっぱい。

カウンターやキッチンだけでなく、「九条Tokyo」には大きな和室が3部屋あり、イベントスペースとして使うことができる。なんと、そこにも大きなスクリーンが。フィルム上映のイベントも多そうだ。

「基本は日本ワインと日本酒を有機野菜やジビエなど国産の食材で楽しんでもらおうというお店です」と小林さん。日本酒が15種、日本ワインが25種あり、冷蔵庫はパンパンだ。

2018年に開店して6年になる。小林さんは、最初3年間は出版社にいて、その後は40年近くプランニングの仕事をした。その中で、食料自給力に関心を持つようになったという。「大豆って和食にはなくてはならない食材ですが、国産の大豆はわずか6%、あとは輸入に頼っています。小麦だって自給力は5%で、95%は輸入です」。「輸入ものの大豆は、遺伝子組み換えがほとんどで、農薬、化学肥料がたくさん使われているものがほとんど。船で届くものは、ポストハーヴェスト(残留農薬)に問題があり、体に良くないです。国産の食材の自給率を上げていきたいのでので、うちの店では輸入食材はなるべく使っていません。次世代のためにもね」と小林さんは語る。

ちょうどお昼の時間なのでランチを注文。「銀平須の西京焼き」をオーダーした。コロナ禍でどこも店でアルコールが提供できなかったため、日本酒の蔵元が潰れたりしたが、営業している蔵元でも日本酒が余るだけではなく大量の酒粕が出て、それを有料で廃棄しているという。そこで、酒粕を買い取り、料理に使っている。西京焼きだけでなく、ほかのランチメニューの麻婆豆腐やジビエのキーマカレーに重量比率で3分の1以上の酒粕を入れて作っているという。仕入れた有機野菜は店で使うだけでなく、1つから売り出しをしている。

体験イベントはというと、3月~5月だけでも、「日本のカレー体験」「Veganラーメン&餃子体験」「Vegan豆腐体験」「アロマのワークショップ」「茶道『石洲流』」「フットケア」「誰かの誕生会&ワードビンゴも」「山歩き部『春』編」「街歩き部」「短歌好きあつまれ~」「とっておきの日本酒の会」「誤配だらけの読書会」「とっておきの日本ワインの会」「歴史トーク」。すごい数だ。「コロナ以前は、映画上映会や音楽ライブなど頻繁にやっていましたが、コロナ以降でも密集するイベントはやりにくくなって残念だ」という。

「Veganラーメン&餃子体験」と「Vegan豆腐体験」もそうだが、開店以来、外国人観光客向けに「和食づくり体験」を提供している。毎月30人くらいの外国人と、豆腐、出し汁、寿司、ラーメン&餃子などの和食を作る。イベントは講座付きで、日本の自給率の話をする。「みんな驚きます。『自国で消費する分を生産しようとしない国があるとは』と」。

そこで小林さんは、「SNSに『とてもおいしかった』と書き込むとき、『日本では食材はほとんど輸入なんだって、日本の将来が心配だ』と書き込んで」と頼むそうだ。「だって、外国人から言われると、真面目に受け止めることが多いですよね」と苦笑する。外国人観光客に向けたイベントで、こんな体験なら講師ができる、通訳ならまかせてという人がいたら手伝ってくれる人を絶賛募集中だ。自給率を高めるだけでなく、観光客との触れ合いは、世界の分断を緩和するという考えに共感することから、観光客向けのイベントを大事にしている。

小林さんが取り組んでいるイベントは他にもある。コロナ3年目の頃から始めたという、「つながる本棚」という活動が面白い。常連客の映画監督、大小田直貴さんといっしょに個人宅を訪ね、本箱を見せてもらって、本についての話をする。1時間半くらいのインタビューで、本を通して家の歴史やその人の人生が語られるものを、15分に編集、YouTubeにアップしている(ドキュメンタリーシリーズ つながる本棚で検索)。インタビュアーは小林さん、監督、撮影、編集は大小田さんが担当。今、11作ほど上がっているが、ライフワークとして続けていきたいという。2作品ずつ上映会をしていて、100人くらいインタビューしたら、抜粋して映画を作ろうと、大小田さんと話しているという。

実は、小林さんは、店はこの場所では3年間だけやろうと思っていた。「3年たったので、お店をやめようと思ったらコロナ2年目になっちゃって。みんなだんだんリモートに飽きてきていて、だれにも会わないし昼も家にいるから、『マスター、ランチやってよ』と言われ、金土日月だけランチやるようになり、『そろそろやめるよ』と告げると、『えー、みんなコロナで鬱屈しているのに、客捨ててやめるの?』って。ひどいんですよ」

「じゃ、もう1期だけやろう」って続けて、今年が6年目で来月が更新月、いよいよやめるつもりでいた。座敷を使う客もいないし、カウンターだけの場所に移ろうと不動産屋に探してもらって、荷物もまとめ始めた。ところがそんな最中に、「これは引っ越し出来ないなあ」という出会いがあったという。それで谷根千というこの場所に居続けることになった。

「毎日、イベントをやっていたいです」と小林さん。「でもひっそりやってくるお客さんと話すことも大事にしたい。毎日イベントだと、そういう人が入って来られない」。悩ましそうに小林さんは言った。(稲葉洋子)

九条Tokyo(台東区谷中1-2-10-2F)Tel:03-5832-9452


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