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いいかごには作り手の精神性がにじみでる/気まぐれギャラリー探訪・gallery KEIAN

小さなスペースに、すず竹を丁寧に編み込んだかごが並ぶ。小石川植物園の上、住宅街の真ん中にあるgallery KEIAN(白山4-8-11)では5月26日まで、「柴田恵 竹のめぐみ展Ⅲ」が開かれている。

入り口はおしゃれな住宅といったたたずまいなので、看板がなければ見過ごしてしまいそうだ。「通年開けていませんし、開けているのは金土日だけなので、知らない人の方が多いかも」と主宰者の堀恵栄子さんは笑う。

2014年秋に主にかごを扱うギャラリーとしてオープンした。最初は、亡き母が持っていたたくさんの着物を、母の住んでいた棟で展示したことがきっかけだった。趣味で集めていたかごも展示したところ、欲しいという人が案外多かったので、ギャラリーを始めることにした。今年で10年になる。

かご好きは小学生ぐらいのころから。「お小遣いをもらうとかごを買っていました」。社会人になってからは、ギャラリーの展覧会やイベント企画などの仕事に携わった。当時は全くギャラリーをやることになるとは思っていなかったが「今になってそのノウハウが役に立っています」。

子育てが一段落した50代ぐらいで、山ぶどうで編んだかごを見て「こんなにすごいかごがあるんだ」と感動し、いいものを長く使いたいと思うようになった。作っている人のところに飛び込みで会いに行った。そのころから、古いかごを見たり、集めたりするようになったという。

なぜそんなにかごが好きなのか。問われても答えられない。「かごは縄文時代からある。女性はそのころから木の実を採集してかごを編んで入れていた。そのDNAがあるのかも」。実際、世界遺産に登録された東北・南北海道の縄文遺跡群をはじめ、全国の縄文遺跡から、樹皮やササで編んだものが出土している。アマゾンの奥地にもかごはある。ベトナムとブラジルのかごがほぼ同じ編み方だと気づいたこともあるそうだ。かごは世界中にあり、共通の編み方もあるようだ。

ギャラリーを始めてからも、必ず作り手のもとを訪ね、自分の目で見て、かごを購入している。東北と、九州が多いそうだ。いいかごには、その人の精神性が映し出されていると思っている。「どうしてこのかごがいいのか、言葉にするのは難しい。背景の精神性が見えるか、見えないか、といったところでしょうか」。夫婦隣り合わせで一日中、かごを作り続けている人がいる。つつましく丁寧な暮らしぶり。「そういう人の作るものはなんともいえず美しいのです」。そうして生まれたかごがいとおしい。

今開いている展示会はクラウドファンディングで製作した「かごを編む 鳥越のすず竹細工とともに、柴田恵」出版記念展だ。柴田さんとの出会いは20年ほど前にさかのぼる。かごが好きだと言っていたら、友人からたくさんかごを譲り受けた時期があった。その中の一つに、すず竹で編んだかごがあり、すごくきれいで魅了された。だが、持ち手が壊れていた。すず竹細工をしている柴田さんのもとに送ったら、自身の作品ではなく、上の世代の方の作品だとわかったが、直してくれたという。

柴田さんが住む岩手県北部の一戸町鳥越地区は、古くからすず竹細工が盛んな土地柄だ。しかし、「若手」の柴田さんはすでに60代で、多くの職人は70代以上だという。そこに追い打ちをかけるように、2018年ごろからすず竹が枯れ始めた。すず竹はササの一種で、120年周期で花を咲かせたあと枯れてしまい、再生に20年ぐらいかかるそうだ。前回枯れた記録が、明治時代の文書にあるらしい。「20年後職人がどうなっているのかと考えると、今記録に残しておかないと」。そんな熱意から、クラウドファンディングをしたところ、目標を超える資金が集まり、本を出版することができた。

すず竹細工は重労働だ。編むのに時間はそうかからないそうだが、山に分け入ってすず竹を刈り、皮をむいて、割って、乾燥させ、削いで。。。と、編める状態にするのに時間と手間がかかるという。「編むのだって、何度聞いてもわからないところもあって」。後継者を育てることが大事だと痛感している。竹細工の盛んな大分には訓練校があり、若い人が育っているが、東北の樹皮やつるを使うかごの技術に関しては、若い人は育っていないという。

美しく緻密に編まれたかごは本当に美しく、軽くて丈夫そうだ。しかし、それなりに高価でもある。昔はかごといえば日常使いの安い品がたくさん出回っていたから、どうなのだろう。「実は今の若い人たちはプラスチック世代なので、竹細工のかごが新鮮に映るようです。長く大事に使いますと、ポンと買う人もいまして」

大正時代に輸出していたという松本で作られていたみすず細工のバッグの展示もある。これをモデルに柴田さんが作ったMスタイルバッグの販売も。そして柴田さんの友人が作っているという一戸町産のアカシア、リンゴ、サクラ、珍しいフジのはちみつも売られている。「かごを編む 鳥越のすず竹細工とともに、柴田恵」は会場で買え、ネット販売も始まった。また、6月30日まで世田谷美術館で開かれている企画展「民藝MINGEI-美は暮らしのなかにある」でも販売されており、柴田さんの紹介コーナーもあるそうだ。ギャラリー開催日などの詳細はサイトInstagramで発信中。(敬)


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