コロナ禍で元気がなくなったまちをどう盛り上げていけばよいか?――そんな問いを続けていた駒込周辺の住民有志が2020年、「こまごめビールプロジェクト」を立ち上げた。実際の醸造は委託しているが、これまでに桜にちなんだ2つのオリジナルビールを企画発売し、飲める店舗も増加中。23日から六義園で、「こまごめ村のそめいよしのエール」をキッチンカーで販売するという。プロジェクト代表でカフェ&パブを経営している関根健人さんは「駒込はソメイヨシノ発祥の地。何かと下を向きがちな昨今、花を咲かせるために準備している桜の木のように、前向きな気持ちで活動したい」と話す。
核となっているのは、SNSのグループ「駒込を楽しみ隊」。JR駒込駅徒歩15分圏内を目安に、駒込を愛する人たちで情報交換するグループで、まちに活気を取り戻すにはどうしたらいいか、アイデアを出すうちに、「ビールがいいんじゃないか」という話が出て「遊び感覚でスタートした」。醸造体験ができる茨城県那珂市の常陸野ブルーイングを2020年秋に十数人で訪れてオリジナルビールを作ったときも、冬に試飲会をしたときも、おおいに盛り上がった。いずれ自家醸造をめざそうという話になったが、まずはOEM醸造をと、浅草橋にあるベクターブルーイングに依頼。そして誕生したのが「こまごめ村エール」だ。
柑橘系の香りがする飲みやすいホワイトエール系のビール。「駒込って、都心なのに村っぽい。地元ネタとかご近所さんの家族構成とか知っているけど、かかわりすぎず、離れすぎずの距離がある」。そんな村っぽさをビールに。そしてその村を応援する(エール)。「村を応援しよう、エールだよね、と命名された」という。駒込在住のデザイナーがラベルをデザインした。試飲会やイベントをやってみたら、「人をつなぐツールとして使えることがわかった」。
第三弾の「こまごめ村のそめいよしのエール」は、2021年の春ごろ誕生した。副原料に桜の葉を使い、桜の香りが強く、飲んだ後も桜の感じが残るラガーだという。いま仕込み中なので、最新の醸造分が飲めるのは23日以降の六義園でだ。そして昨年秋に発売したのが「こまごめ村のよざくらスタウト」。やはり桜の葉を使った黒ビールだが、桜の香りやカカオの甘みが感じられるすっきりとしたスタウトだ。
ビールは普通に飲んでおいしいと思っていただけだった関根さん。企画開発するとなると勉強しなければと考え、ブルワリーを訪ねたり、本を読んだり。「世界のビール博物館」で世界中のビールを飲み尽くした。飲んだビールのびんや缶の写真も保存してある。開発の中心になっているのはビール好きで副原料にも詳しい「開発部長」。プロジェクトメンバーは36人にも膨れ上がり、広報や経理、開発、イベント担当などチームに分かれて会合を重ねている。みんな手弁当だが、資金は少しずつたまりつつある。現在、こまごめビールが飲める店は18店、買える店は7店ある。人が人を呼んで、東京都公園協会の責任者とつながり、六義園にも出すことができた。
関根さん自身は六義園の隣にある「カフェ・ポート・ブルックリン(文京区本駒込6丁目)」の経営者。2022年に巣鴨駅近くに「カフェ・ポート・グラスゴー」を開いた。昼間はコワーキングスペースとして使われており、建物オーナーの奥さんが英国人とのことで、英国風の調度品が並ぶ。クラフトビールのタップが3つあり、こまごめビールも生で飲める。
「パブって、パブリック、公共、社交場という意味がある。気軽に立ち寄れる、まちに開かれた交流拠点にという思いがある」と関根さん。ビールはもちろん、飲食を通じてまちのつながりを作れたら、と考えている。「としま会議」、オペラコンサート、餅つき、朝読書会・・・さまざまなイベントなどをやっていて、「1年で友達が500人ぐらい増えた」。
世の中の空気は明るくないが、「あきらめモードはいや。あきらめたら試合終了になるじゃないですか」。店名のポートは港の意味。港には世界中から価値観が違う人が集まってきていろんなものや価値観が生まれる場。まちの未来をつくる交流の拠点としての飲食店には、まちへの責任や役割がある。駒込のまちを盛り上げるということと、経営理念は重なる。「こまごめビールでまちに活気を。いずれほんとにブルワリーもつくれるんじゃないかな」。関根さんの鼻息は荒い。こまごめビールが飲める店はこまごめビールプロジェクトのサイトで確認できる。(敬)