Close

築100年以上の「目白台の家」、活用を模索中/「おうちひらき」に約250人が来訪

目白台の閑静な住宅街の一角に、古い民家がある。大正時代に建てられ、6度も改築されたこの「目白台の家」は、建築関係の学生や社会人による再生プロジェクトが2022年から始まり、地域に開かれた場としての活用を模索している。このほど「おうちひらき」があり、ガイドツアーや活用法を考えるワークショップが開かれ、3日間で約250人が訪れた。

「大正4年に建てられた家を、大正8年に現オーナーさんの祖父が購入し、大正10年、昭和10年など、6回にわたって増改築をしてきました」。ガイドを務める東京都立大学都市環境学部助教の高道昌志さんが説明しながら、ツアーが始まった。

玄関の天井は、神社仏閣で見られる格子状に組んだ「格天井(ごうてんじょう)」だ。「住宅の顔として上品なつくりですね」

玄関を上がって右にある洋間は昭和10年に増築された。アップライトピアノが2台あり、そのうちの1台はオーナーの祖父が洋行の際に購入したもので、フランスのピアノメーカー「エラール」製とのこと。腱板は、今は入手できない象牙でできており、燭台も付いている。オーナーは「この部屋でピアノの練習をしていたのですが、よく練習をさぼってソファに寝転がっていました(笑)。古いレコードプレーヤ―や蓄音機もあります」と証言。かなりハイカラな趣味の祖父だったらしい。

高道さんが「ソファの座面が長いのはなぜでしょう」と問えば、参加者が「女性が帯をしていたからでは」と、ご名答。女性が着物を着ていた大正時代の息吹を感じる。

台所は大きなガラス戸や天窓があって広く、南向きなので日当たりがよく明るい。「大正期以前、水回りは重視されてこなかった。ここは台所に立つ人に配慮したつくりになっている」と高道さん。隣には広い風呂場があり、洗い場はモザイクタイルが使われている。「この時代からタイルとは、当時の最先端だったはず」

台所の隣の六畳間は書院と押し入れがあるが、今でいうダイニング、だろうか。小さなふすまを開けると、台所の棚につながるではないか。実は配膳口なのだった。

当初女中部屋としてつくられた四畳半の間の方が庭が見えるし、居心地がよいということで、最近ではもっぱらこちらが茶の間に使われていたそうだ。

目白台の家再生プロジェクトは、オーナーの相談を知人を介して受けた高道さんら建築家や、建築を学ぶ法政大学の学生らが担っている。地域の歴史や建物の歴史、構造の調査から始め、建物や庭の手入れ、障子の張り替えや修繕も2022年からワークショップを開くなどしてきた。

「一般公開はしていなかったので、今回は初めてのお披露目」と高道さん。6度の増改築によって、大正期の住宅が近代中流階級の住宅へ変化した軌跡をとらえることができ、台所や洋間からは住宅の発展や特徴がみられる貴重な建築だという。

「建物としての価値や魅力だけでなく、オーナーさんが大切に住みこなされてきたこと、残したいという気持ちや思い入れに共感した。地域ぐるみで活用できる道を模索したい」と話す。

おうちひらきのワークショップでは多彩なアイデアが出された。干柿作り、ゆず収穫会、餅つきやカルタ会、箏や三味線の演奏会、台所や客間を使った季節の日本料理会、古本市・・・。家の修繕や庭の手入れ会、編み物など手仕事のイベント、お手玉や折り紙教室など、たくさんの活用案が集まった。

オーナーは「家族で住んできた家なので思い入れがある。ご縁あって建築家さんたちとつながり、庶民の家としてこのように残っているのは珍しいと聞かされた。みんなで直していくとか、やりたいことをやれる場などに活用できたら面白いかもしれない」と話していた。(敬)


Copyrights © 2007-2015 JIBUN. All rights reserved.
error: 右クリックはできません。