中野の住宅街の細い道を何度も曲がって、古い家も新しい家も混在する一角、路地からも見えない小さな古民家が「中野秘密基地」だ。たどり着くのは至難の業。仲間しか知らない、知る人ぞ知る、まさに秘密基地。

「ゆるくつながる多文化共生の発信基地、とでもいえましょうか」と、運営する山本真梨子さんは言う。毎月1回開いている「たぬどん食堂」には、小さい子連れの親、子ども、長年地域活動をやってきた高齢者、近所の日本語学校の学生ら外国人も訪れる。メニューは夏は流しそうめん、秋はハロウィンに山形の芋煮、韓国のごはん、「エンさんの水餃子」と国際色豊か。食べるだけでなく、工作ワークショップや遊び、クイズなどもある。食事は「30人分作るよ」とうたっているものの、50人の予約が入ることもあり、毎回入れ替わり立ち替わりいろんな人が40人ぐらいは来る。

山本さんは10代からバックパッカーで世界中を渡り歩き、宿で人と人が会うことが楽しく、帰国してから中野で外国人向けのゲストハウスを始め、18年間営んできた。民泊とかインバウンドとかいう言葉もないころ、日本文化と出合える旅人の宿、だったが、外国人向けの宿が増えて競争に巻き込まれたうえ、コロナ禍により2020年閉店の決断をせざるを得なかった。

折しも、経営を学び直そうとオンライン大学で学んでいたところで、卒論テーマは、誰でも集まれる場としての古民家で、全国のコミュニティ事例をヒアリングしていた。コミュニティをどうつくるのか、研究するなかで、「自分は外国の人とずっとかかわってきたのだから、それを軸にしたコミュニティを作ろう。多文化共生をコンセプトにしよう」と思い至ったという。2021年、クラウドファンディングで資金を集め、以前はシェアハウスとして活用、コロナ禍で倉庫となっていた古民家をDIYで改装。中野秘密基地をオープンした。ほかに、古民家を活用した外国人向けのシェアハウスを2棟運営している。

たぬどん食堂の「たぬどん」は、ゲストハウスをやっていたときのキャラクターだ。たぬどん食堂は、コロナが落ち着いてきた2023年1月、地域の掲示板などにチラシを貼らせてもらい、お試しで開催したのが始まり。ボランティアを含め40人以上が集まったので「必要とされている」と思い、DIYを手伝ってくれていたサトミさんと共に、区の助成金をもらって定期開催することにした。「みんなで話したり作ったりする会なので、座ってトランプしたりおしゃべりしたり、自然な交流が生まれる。おばあちゃんちに来たみたいと言う人もいて、古民家の雰囲気が大きいと思う」

いまでは認知が広がり、町会長がチラシを貼ってくれるし、近所の日本語学校は「学生は家と学校の行き帰りだけで日本人と話す機会がないから」と、留学生を派遣してくれる。留学生だけで固まらないよう、5~6人の枠を設けているが、その調整も学校がしてくれるという。「子どもたちと留学生は相性がいい。トランプとかひらがなカルタとか、縁側で一緒に遊んでます」という。

実はゲストハウス時代から、地域に開かれた食事会を週1回ほぼ欠かさず、10年間開いていた。宿泊者の各国の家庭料理をワンコインで食べられる会なので、外国人や地域の人、ボランティアも集まってきた。「もちつきは人気だったが、台風の日は誰も来なくてスタッフだけで食べたこともあった。足りないものはコンビニで買えばいい。いかにゆるく続けるか、がんばらないことが大事」。この経験があるからか、たぬどん食堂はボランティアと参加者の境目があいまいで、「おいしいです。楽しいです。水餃子作れます」「じゃあ来月作ってみる?」というノリでメニューが決まっていくそうだ。ゲストハウス時代の参加者だった親子が、今はボランティアとして手伝いに来ている。

酒種酵母のパンと自家焙煎コーヒーを提供するカフェや、みんなで秘密基地をシェアする「シェア居間」、ゲストを呼んで戦争や難民支援や障害などさまざまなテーマについて学ぶご近所のおばあちゃん主催の「共に生きる会」などもある。

また、2025年3月には区の助成や地域企業の協賛を受けて「中野区エスニックマップ」を作成した。中野区はネパールやミャンマーの人も増えてきていて、人口の約7%が外国人だという。一方で区のアンケートでは、日本人住民の85%が「外国人と接点がない」などと回答。「普段あまり接点や興味がない人に手を取ってもらいたい」と山本さん。外国人経営の飲食店をリストアップしたら100軒以上あり、そのうちの24軒を掲載した。中国、韓国、タイ、インド、トルコ、ウズベキスタン、ネパール、バングラデシュ、ロシア、チリ、アフリカ・・・世界の民族の料理のオンパレードだ。

「収益事業もやらないと」と、押し入れを改装して焙煎とパッキングの「工場」とし、縁あってつながったアフリカ・タンザニアの農園のコーヒー豆を使った「ひみつきちコーヒー」の販売に2023年から乗り出した。「集中してこれ一本でやらないとビジネスとしては成り立ちません」と笑う山本さんだが、「コーヒーがあるだけで和やかになる。出会いを生み出す、がコンセプトです」という。パッケージは中野区ゆかりのアーティストや、障害者アートとも言われるアール・ブリュットの人に描いてもらった。イベントにも出展し、コーヒーを通じて語り合うのが楽しい。「つながりのツールに発展している」と手ごたえを感じているという。中野と世界をつなぐ山本さんの活動はゆるやかに発展しながら続いていくようだ。スケジュールなどはサイトやInstagramで発信中。(敬)

