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気まぐれギャラリー探訪/絹藍絣の織元、鹿児島から伝統工芸のまち、谷中へ/「藍と絹のギャラリー 工房徳元(とくげん)」

谷根千のあたりには小さいけれどお洒落なギャラリーがたくさんある。毎年「芸工展」に参加するギャラリーも数多く、地域の個性を作っている。ギャラリー探訪第1回目は「藍と絹のギャラリー/工房徳元」。会社組織となって約40年になる。

台東区谷中6丁目、東京メトロ千代田線「千駄木駅」を出て、三崎坂(さんさきざか)を上りきったあたりを道なりに右に歩いていくと、すぐの右手にある。古くからあるギャラリーだ。三崎坂にあるのに、「七面坂ギャラリー」というような看板を横目で見ながら「徳元」にたどり着く。ガラス窓から店内を覗くと、藍色の服やスカーフが並び、とても涼しげだ。

「お店ではなくギャラリーと名乗っているのは、うちは、もともとは大島紬(おおしまつむぎ)の織元で、絹藍絣(きぬあいがすり)という藍染(あいぞめ)だけで染める染織品を作っている工房で、その作品を展示するギャラリーとしてのスタートだったからです」と、店主徳元(とくもと)典子さんが言う。お姑さんにあたる小野彰子さんが代表で始めたという。典子さんの夫が跡を継いだ。「明治生まれの祖母の代には何十年と鹿児島で大島紬を織っていました」

「以前は、いろいろなジャンルの大島紬を扱っていたのですが、一度藍染というものがかなり落ち込んだ時代があり、瓶を埋めて捨てようとしていた職人さん(伝統工芸士)がいて、そこに、母が手助けをして、一緒に藍染を盛り上げようということになりました」。瓶を埋めるというのは、工場を閉鎖し、廃業することだ。「和服用の反物である着尺だけでなく、その技術を室内装飾品などにも広げるために『絹藍絣』という新しいジャンルを生み出そうとしました」。

季刊「銀花」1995より

当時、藍染だけではなく、機織りそのものが落ち込んだ。1995年版の「銀花」という雑誌で、小野彰子さんは「元気がなくなってきた絣布の世界に新しい風を起こそうと頑張る人」として紹介され、「このままでは技が滅びてしまう。そんな問題意識から始めました。蓄積された水準の高い技をこれからの時代に生かすには、伝統という足枷を外し、イメージを刷新するしかない。新しい絣の可能性としての美術工芸品を創りたいと考えたのです」とインタビューに答えている。昭和50年代後半、危機的状態にあった織物界を、新たにいろいろなジャンルの職人さんたちをつなぎ、見事に再構築する仕事を「徳元」は成し遂げ、その延長線上に今がある。

洋服もやらないと存続できないと、絹の藍染で洋服生地を作り出した。絹糸を天然藍で染め、織り、工芸的な生地にして、東急百貨店や三越と仕事をしていた。バブル前のことだ。谷中で商売を始めたのが25くらい前。「この近くのレストラン(筆や)の2階が貸しギャラリーで、展示会をしていましたが、やっぱり拠点が欲しくて、この場所を借りました」と典子さんは言う。「その頃は藍絹(あいぎぬ)の洋服や絹藍絣のいわゆる工芸品中心のギャラリーでした」

「今、谷根千は人気のまちですが、私たちが来た頃は、森まゆみさん達が『谷根千』を立ち上げた頃。それほど人が来る場所ではなかったので、『銀座の繁華街ならもっと儲かるよ』と言われたけど、やっぱり工芸とか伝統的なものとかって、谷中だなあと」と思ったという。「美大もあるし、藍染川、藍染橋、藍染大通りもある」と典子さんは笑う。

「洋服は、備後絣とか亀田縞とか遠州綿紬や近江地方の麻のような『日本の工芸生地』に特化しています」。染めも最初は藍染が中心だったが、いろいろな工房の方と知り合って、草木染とか墨染など染めの作品をギャラリーとして半分を使い、展示会をしたりしているという。「今はすごくものが増えてきたので、なかなかギャラリーの部分が機能しなくなっちゃって」と残念そうだ。

現在、「洋服はオリジナルで基本手作りです。染めた生地を、百貨店の時代から何十年と付き合いのあるパターンナーさんとデザイナーさん、縫製の方々が、手掛けてくれますが、ベテランの方々なのでよくわかっているし、ほんとに1点ずつ仕上げてくれる職人仕事です」。

生地は手で染めた糸で織り、家内製手工業みたいにやっている。「藍染、柿渋染め、墨染という天然系染料で手染めして織っている。ちょっと旧式の織機を使って織っているので、風合いもいいし、着ると、宝物にめぐりあったような感じですよ。手が入っていて、心がこもっているものなので、大事にしたいという気持ちになります」。柄も日本的だ。江戸時代から家ごとに持っている縞帳という、縞のデザインが貼ってある帳面があるといい、そこから縞を選び、今の時代にあうデザインを織り出すなどしているという。

だから洋服とはいえ、伝統的なものがベースになっている。「昔は布は着物用の幅に織っていましたが、今は、着物幅じゃなくて洋服用の広い幅でも織るようになってます。洋服なら1万円~2万円台から商品にできるのです」。

色が褪せたら、染め直しもできる。「染め直しをして、また生き返るんですね」。典子さん着用のTシャツも、何回か染め直している。藍で染めると丈夫になるそうだ。「みなさんに知ってもらい使ってもらうと、良さもわかる。ぜひ試してほしいです」と典子さんは話していた。(稲葉洋子)

藍と絹のギャラリー 工房徳元

〒110-0001東京都台東区谷中6-4-6-1F

TEL 03-3827-3411

MAIL tokugen@cronos.ocn.ne.jp


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