先日当店のSNSでもお知らせしましたが、OSAGARI絵本は6月いっぱいで閉店することになりました。
我が子の妊娠・出産を機に始めたOSAGARI絵本も、気が付けば10年。絵本を通じてたくさんの人と語らい、たくさん笑って涙して……店主としては至らぬことばかりでしたが、10年を振り返って思い出すのはたくさんの笑顔です。これまでOSAGARI絵本にかかわってくださった皆さまに心より感謝いたします。
細々と続けさせていただいたこちらの連載もいったんおしまいです。大好きな絵本がたくさんあるなかで最後にどの絵本をご紹介しようかと迷いに迷いましたが、やっぱりこれかなと本棚から取り出したのがこちらです。
『あなたが うまれた ひ』
デブラ・フレイジャー作 井上荒野訳
福音館書店
息子がお腹の中にいたときに出合った絵本です。初めて手にしたときは心の底から熱いものが湧き上がるような感動を覚え、その後も折に触れて読み返すたびに、心震える特別な1冊です。
物語は「あなたがうまれるまえのひ」から始まり、「あなた」が生まれるといううわさが動物たちの間を駆け巡り世界中に広がります。もうすぐ生まれてくる「あなた」を、動物たちも月も地球も太陽もこの世界のすべての存在が楽しみに待ち焦がれ、その思いがページをめくるごとに高まっていきます。
そして最後に「あなた」は生まれる。まっくらなところから、たくさんの人たちが歌う輪の中へ。
この絵本に出合った当時、私はまだ見ぬ我が子の保活で大苦戦中でした。認証保育園も100人待ちと言われ、空きがあるのは家からだいぶ離れた認可外保育園のみ。見学に行ったものの我が子を預ける未来が思い描けず、お腹の中の子に申し訳ない気持ちでいっぱいでした。待機児童確定。せっかく授かった命なのに、社会に歓迎されていない気がして悲しかった。まだ生まれてもいないのに、ごめん、と。
そんな不安な日々にこの絵本に出合い、なんと心強かったことか。「この世界は素晴らしいから、安心して生まれておいで! 待ってるよ!」と言ってもらえた気がして。
それ以来、幾度となくこの絵本を読んできました。予定日を過ぎてもなかなか生まれてこない息子に「大丈夫だからそろそろ!」と必死にこの絵本を読み聞かせ、生まれてからは自宅でPC作業の合間に、また晴れて保育ママさんにつながれたときや毎年のお誕生日にも必ず、この絵本を読み続けてきました。
赤ちゃんだった息子が破いてしまったページはテープでつぎはぎだらけだし全体的にくたびれてしまったので、3年前に新品を1冊購入しました。小学校での読み聞かせ用に。くたびれたほうは我が家の宝物として、これからも大切に読み続けていきたいと思います。
最後になりますが、この小さな絵本屋から旅立ったOSAGARI絵本も、どこかのおうちの「宝物の1冊」になっていましたら幸いです。そしてこれからも、皆さまにとって素晴らしい絵本との出合いがありますように。

(OSAGARI絵本・伊藤みずほ)